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歩の話

読んでいただけて嬉しいです!

これはアムステルの前世の話ーーー


立花 歩(たちばな あゆむ)という少女がいた。

自宅で自動車整備工場を営む父、4つ上の兄、犬と猫、外に男を作り家にあまり寄り付かない母。


歩が5才の時、両親がいよいよ離婚となる。その際、父は『お父さんとお母さん、どちらと一緒に暮らしたいか』と兄妹に聞いた。

一見「小さな子供に酷な質問を」と思うかもしれないが、常に子供を子供扱いしない父の姿勢が歩は好きだった。

歩は迷わず『お父さんと一緒がイイ』と即答し、当時9才の兄は一晩泣いて迷ったが父との暮らしを選んだ。


それから3年ほどは2人の誕生日にそれぞれ差出人未記入のプレゼントが届く。兄は喜んだり寂しさを思い出して泣いたりしていたが、歩が特に心動かすことはなかった。

両親の離婚してから中学2年生になるまで家の炊事・洗濯の一切を歩が担っていた。本家の祖母や、父の兄弟たちはそんな歩を不憫に思っていたが、歩本人はむしろ喜んで学校と家事との両立をやりがいを持ってこなしていた。

時はバブル絶頂期で、自動車整備士の父は毎日忙しく働いており、どちらかというと裕福な生活の中、歩に反抗期などが訪れることもなく平穏で幸せな日々だった。


のちにトオルと出会い、この頃の思い出を歩は本当に楽し気にこう語っている。


「実母から料理を学んだことは一度も無い。基礎についてはその時点でキッチンにあった古い料理本を頼りに独学。でも年に数度、器用な父が多忙な仕事の合間を縫って料理に腕を奮ってくれて、そこから学べる事が沢山あってそれが嬉しかった」


歩が14歳になる頃。父に24歳年下の新たなパートナーが出来る。美しい(ヒト)だった。歩との歳の差はちょうど12。

最初は通いで立花家に訪れ、その内に籍を入れ一緒に住み始めた。少し気難しい女性だった為、歩が並んでキッチンに立つことはなく家事の一切を彼女に任せることとなった。

多少の潔癖症を覗かせるその女性は、きちんとした大人の女性として歩の目には映り、憧れのような気持ちを抱き、歩は継母(ままはは)になったこの女性も、愛情いっぱいに育ててくれる父のことも大好きであった。

世間でよく聞く『継母との不仲』などは一切なく、むしろ「若いお母さん最高!」くらいの気持ちであった。

ちなみに兄は少々反発をみせる。


父と継母の間に女の子が産まれたのは歩が15歳の時。

15年下の妹は家族皆に愛されスクスクと育つ。


高校生の時にアルバイトをして貯めたお金を使い、歩は18歳で独り立ちし、実家からそう遠くない距離のアパートで暮らし始める。就いた仕事は書店店員。その時の恋人と同棲を始めたり、たまに実家に顔を出して妹と出掛けたりと順風満帆であった。

そこから2年。歩が20歳の時に大好きだった父に胃癌が見つかり、1ヶ月ちょっとの闘病生活の末に急逝した。

転生後、前世の記憶は日に日に薄れていくが父の通夜と葬儀にかけた一週間をアムステルは生涯よく覚えている。



「可哀想に。まだなんにもわからないでしょうに」


親類や参列者は5才の妹に向けて、そんな言葉を投げかけ頭を一撫でして去っていく。

涙ながらのその言葉が意地悪などではないことは分かっている。心底可哀想だと思っているのだろう。

心底「何もわからない」と思っているのだろう。

妹も、隣の私も静かに微笑んで返す。


父は顔の広い人だったので自宅への弔問、通夜、葬式と多くの人が訪れた。

言いたいことは山ほどあるが、妹は無邪気を装い、私は困った笑顔を作る。


子供というのは存外に頭が良い。

場合によっては大人よりも周囲をよく見て空気が読めている。

父の闘病生活の1ヶ月間と少し、亡くなって棺に納められるまでの2日間、棺に納められてから出棺までの数日間。

妹は保育園に通っている時間以外はずっと父の傍にいたのだ。

何も分かっていないわけがないではないか。

父の死を少しずつ受け止め、きちんと理解し、それでもその小さな体でシッカリと向き合おうと気丈に振る舞っているのだ。

何を言われているかも正確に理解している。家族しかいない控室で静かに悔し涙を流す妹を膝をついて強く抱きしめた。


***


(だから子供は苦手なんだ…)


妹ならまだしも他人の子供はわからない。あの無邪気さの裏に何を抱えているのか。

それに、やはり純粋すぎる。周囲の言葉を流せない。こちらが何かを言った時、そのまま捉えられてしまうから気が抜けない。


前世の妹に思いを馳せながら歩き、気がつくと死んだ森(モルトゥースシルヴァ)に足を踏み入れていた。

ここは竜の加護により秘された領域。竜に許可された者以外は決して入れない。

時は経つが季節はずっと秋。実り多き森に陽の光が差し込み、黄金のように見える。いつ来ても美しい森だ。


大きく深呼吸をした。

身体と気持ちにリセットがかかるような心地。アムステルはここが気に入っている。

森の美しさも理由の一つだが、ここは襲撃や盗聴の恐れを気にしなくて良い。気を張って過ごす毎日には慣れたがやはり心穏やかな時間は必要だ。

この森の他に気が抜ける場所といえば、自分が生まれたあの城と、世話になっている冒険者宿の自室。


あとは王太子の執務室くらいか…。


あいつも中々ガチガチに結界を張っている。万事に備えようとするその姿勢をみるに、ちょっと自分と似た人種なのかもしれないと、アムステルは少し笑んだ。


真昼の視力が奪われたあの日から、襲撃の類はまるでない。畳み掛けてくれば尻尾を掴めるかと思っていたが、不気味なほど手掛かりがない。策を企てあぐねているのか、何かのタイミングを待っているのか。

結びつきそうなことを強いて挙げるならば、魔物の出現率が少しずつ増えているくらいだ。

魔物の出現に人がどの程度干渉できるのかは分からない。自然発生がたまたま増加のフェーズなのかもしれないが注意は払うべきだろう。

2ヶ月ほど前にも魔物との連戦が続き、溜まった疲弊により王国を守る騎士達に大きな被害が出てしまった。

幸いにして死亡者は出なかったが、フジヤマとアムステルも駆けつけてそれぞれの出来ることに奔走した。


アムステルとフジヤマは幾度か魔物討伐に同行している。2人は戦闘に大いに貢献し、アムステルの治癒魔法も大いに役立った。訓練に参加させてもらう機会も多く王国騎士団の面々とも既に顔馴染みだ。

食事を共にすることも多い、傷ついてほしくはない。


魔物の出現率増加についてはノアがくれば解決となるだろうが、彼の片田舎での平穏な暮らしをこちらから壊していいものではないだろう。

自ら王都へ足を向けてくれるならば安全面の上でも、頼れる仲間としても、大いに巻き込むのだが…。

ノアが村を旅立つことがあれば、偵察させている眷属から連絡が入るだろう。


そこは期待せずに待つとして…


まずは先程の少女が聞くという妖精の声について真昼に尋ねなければ。

アムステルは死んだ森(モルトゥースシルヴァ)の湖のほとり、フジヤマと真昼が住むログハウスの扉をノックした。

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