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あなたが先生?

読んでいただきありがとうございます!

王都を丸ごと夜にしたアムステルは住居として世話になっている冒険者宿の一室に結界を張り、『夜の魔法を解いて欲しい』と懇願しにくる王城からの使者を無視し続けていた。

初日は驚かれたものの、前向きな国民性ゆえか、王都内の民たちからは思いの外受け入れられ『転生者がもたらした夜の休暇』だとまるで祭りでも始まったかのように酒場は盛り上がり、皆が一様に笑顔で明けぬ夜を楽しんでいた。

その光景を宿の窓から眺めつつ日々を過ごしたが、続く夜が5日目となった頃、開かぬよう結界を施したアムステルの部屋の扉はラハエル殿下によって物凄い勢いで開かれた。

膨大な魔力量により力尽くで結界魔法を壊したのだろう。さすが一国の王子。

しかも殿下自ら大衆酒場建ち並ぶ冒険者宿まで良く来たものだ。

扉も開かず、話も聞いてもらえず困り果てた使者たちがいよいよ王太子に泣きついたのだろう。


「やりすぎだ!」と一喝されたアムステルが舌打ちをしつつ指を鳴らし明けぬ夜の魔法を解くと、


「明日、俺のとこに来い。絶対だ」


と言い残しラハエル殿下は王城へと帰っていった。


急におとずれた真っ昼間の晴天に外は人々の声がまた賑やかであった。


***


王太子に呼ばれて彼の執務室に来たアムステルだったが、執務机の前に立ったまま待たされている。

彼は何やら多数の書類に目を通し、振り分け、必要であればサインをしたりと忙しそうだ。いつも王太子の後ろに控えている護衛騎士カークリヒトも今は自身の席につきアムステルを気にしつつも書類や手紙の整理をしている。

2人とも通常時の騎士服姿でこれはこれで目には楽しいが、用が無いのならそろそろ帰ろうかと思った矢先、ラハエルが話し始めた。


「王都の西に孤児院がある。お前は今からそちらに出向き、そこの子供達に必要だと思う事を教える教師になってくれ」

「は?」

「通う頻度は週に一度か二度でよい。孤児院の院長には手紙で話を通しておいた。お前は放っておくと碌な事をしないからな、純粋な子供達と触れ合う機会を定期的に持つのも良いだろう」

「いやいや、私は子供が苦手なんだが?」

「苦手なくらいで丁度いい。女神の教えのおかげでこの国の孤児たちは民の協力も厚く、大切に育てられている、それはありがたい事だが…卒院後に必要となる分野の教育は皆無と言っていい。孤児院は15歳で卒院となる。魔法の使い方や生きる知恵を孤児院在籍中に身に付けさせたい」


変わらず書類に目を通しながら話していたラハエルは、ここでようやく顔を上げアムステルに目を向けた。


「西の孤児院をモデルケースとし、お前にその礎を築いてほしい」


全く気は乗らないが、その真摯な青の瞳に断る選択肢はなさそうだ。


「わかったよ。でも私なりのやり方でやらせてもらうからな。文句言うなよ」


アムステルは溜息混じりにそう答え、用は済んだとばかりに踵を返す。

部屋を出ようとした瞬間、ラハエルが呟いた。


「お前なら大丈夫だ」


ようやく耳に届くかどうかの音量。

祈りにも似たその声音をアムステルの耳はしっかりと受け止め、振り返らずに執務室を後にした。


***


「あなたが先生になってくれるひと?」


ふいに声をかけられて振り返る。

声の主は5歳くらいの小さな少女だった。手にはボタン目のクマの人形。


ここは王都の西にある孤児院。規模としては少し大きめで15人ほどの子供達と、その世話にあたる数人の大人と院長が寝食をともに暮らしている。世話をする大人たちの中にはこの孤児院の卒院者も多いという。

経営自体は王都内の貴族が任され、女神信仰の教え通り余裕のある民からの寄付もあり、清貧な暮らしとはいえ困窮はみられない。


「柄じゃぁないが、まぁ世話になる」


アムステルは答えた。

先程ここの院長に挨拶を済ませ、1人で院内をみてまわっていたところだ。

院長のハーロックは意外にも若い青年であった。茶色の髪と瞳はこちらの世界でよくある容姿だが、幾分キレイな顔立ちに少し目を引いた。


「あ あのね!わたしっ…」

「トゥナ、やめとけっ!どーせ変わらないっ」


トゥナと呼ばれた少女の言葉を遮ったのは少女の後ろについてきていた少年だった。


「どうした?困り事かい?」


膝をつき少女の目線に合わせたアムステルは問いかけた。

その表情は柔らかい。


「あの…わたし、あのね、妖精さんの声が聞こえるの!」

「へぇ それは変わってるね」


アムステルが面白そうに受け応えると、その返答に少女の顔は泣き出しそうに歪む。


「やっぱり先生も変わってるっていうのね」

「変わってるって言われるのは嫌いかい?」

「変わってるってことは人と違うって事だろ!!」


少年も参戦する。


「人と違うと何か駄目なのかい?」


心底不思議といった表情でアムステルは問いかける。


「駄目って…だって…。お、大人はみんな言うじゃないか…。変なことを言うと仲間外れになるよって…」

「ええぇ 唯一無二みたいでカッコいいじゃん。少なくとも私のさっき言った『変わってるね』は褒め言葉だよ」


今度は少年達が不思議そうな表情をする。


「人と違ってもイイ。同じでもイイし、例えば似てたってイイんだよ。大事なのは自分が自分であることなんだから」

「自分が、自分であること?」


呟く少女にアムステルは大きく頷いた。


「あぁ、そうだよ。自分にだけは嘘をつかず、自分に恥ずかしくない生き方をしていれば誰に何を言われたって構うもんかよ」

「ヨハンはヨハンで、トゥナはトゥナだろ。大切なのはそれだけだ」


トゥナの後ろで少年・ヨハンは目を丸くした。彼の名前をアムステルが口にしたことに驚いのだろう。先程、院長から子供達の集合写真を見せられ、名前などの簡単な説明を受けたからなのだが、ヨハンのその反応にアムステルは満足し言葉を続けた。


「それじゃぁ、初日の授業といこうか」

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