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朝の来ない夜

読んでいただけて嬉しいです!

ラハエル殿下の執務室を出て王城を後にし、3人は王都の街中に戻ってきた。


「さて、この後はフジヤマにノアを任せてもいいかい?私は今日は先生の日なんだ」


ローブを翻し振り返ったアムステルにフジヤマはひとつ頷くと告げる。


「ノアと冒険者ギルドに行って冒険者ライセンスを貰ってくる。そのあとそっちに合流するよ」

「助かる。ほんじゃ行ってくる」


背を見せ、どこかに向かおうとしたアムステルは再度振り向き「ノア」と呼びかけた。


「王太子のことはとりあえず今は気にしなくていい。しばらくは旅の疲れを癒して王都に慣れろ」

「はい。ありがとうございました」


言葉もなく呆然としていた俺を気遣ってくれたのが分かった。予期せぬ事が一気に起こり、ぼんやりとフリーズしてた思考がアムステルの声掛けにようやく戻ってくる。

それに満足そうに笑い、アムステルは目的地へと去っていった。


フジヤマと一緒に冒険者ギルドへと歩き出す。


「アムさんは何処に向かったの?」

「アムさんは週に何度か孤児院に行くことになってて、今日はその日だ」

「え!アムさんが孤児院!?あの人、子供が嫌いでは…」


たしかそうだ。前世でのゲームプレイ中の雑談で『子供、無理』的発言は何度も聞いていたことがあった。

その様子を覚えているので、どうにも孤児院とアムステルが結びつかない。


「もちろん自ら進んで通い始めた訳じゃなくて、こっち来てから少ししてちょっと一悶着あって、さっきのラハエル殿下からの提案というか…命令というか」

「一悶着って一体何が…」


ラハエル殿下の顔を少し思い出しつつ聞いてみる。

フジヤマは面白そうに笑み、約3年前のその日の事を語り出した。


***


その日は朝から雲ひとつない晴天で、目の前の学生達はその瞳を輝かせながらこちらを見ていた。


ここは王都にある魔法学校。主に神殿に勤める神官達が授業や管理運営に携わり、未来の国力となる優秀な魔導士達を育てる為の学校だ。

入学出来る年齢は16歳から。学費は全面的に国が負担するが、入学するにはある程度の高い魔力が必要である。

いわば魔法のエリート達が揃うこの学校にアムステルとフジヤマはこの日、一日講師として招かれていた。

と、言っても何をするでも無い。

案内担当の神官数名に魔法学校が如何に素晴らしい場所かを自慢げに説明されつつ学内を歩き、生徒たちが学ぶ様子を見せられ、たまに溢れる神官の転生者への嫌味を聞き流す。多少疲れるイベントみたいなものだった。

そう、転生者と神官は仲が悪い。悪いというか神官側の大多数が転生者の存在や待遇に対して懐疑的なのだ。

王族と同等、もしくは神のように扱われる転生者は女神を世界の最頂点とする神殿の権威と相性が悪い。

おまけにアムステルはあろうことか闇属性持ち。闇属性の転生者は過去に例がなく、聖属性こそが最強の魔法属性だと謳う神官達からの憶えが悪かった。

おまけのおまけに物怖じしない奔放なアムステルの振る舞いも火に油といった様子であった。

もちろん中には転生者に対して理解ある神官たちも居るにはいるが少数派で、この日はその場にはいなかった。


それでも学生達からすれば雲の上の存在、憧れの転生者だ。2人の目にとまり、声掛けがあるやもしれぬと皆ソワソワとしていた。

その日の締め括りとして、アムステルとフジヤマは屋外演習場にて特級クラスの学生たちに紹介される。

ここでも何をするでもなく授業を受ける学生達を眺め、「アドバイスなどあれば言ってほしい」と神官に促された。

その時の授業担当は反転生者派として知られる神官で、心無い言葉でアムステルを煽り始めたという。


「いかがですか?転生者殿。皆にその類稀な闇属性魔法とやらを披露していただけませんか?それとも恥を掻きそうで高貴な貴女様には難しいですかね」


今日1日通してこんな感じだがアムステルは微笑んで適度な相槌で受け流していた。


が、


「そういえば、今日も姿を見せない真昼様のご容態はいかがですか?なんでも外敵の襲撃を受け、失明のうえ伏せっているとのこと。転生者という立場に胡座をかき、その驕りのせいで怪我などするのです。お隣のフジヤマ様もどうせ大したギフトでもないのでしょうし、そもそも転生者というのも疑わしくなりますな」


ずっと朗らかな表情で大人しくしていたアムステルに「何も出来まい」と神官は高らかに笑った。フジヤマと当日不参加の真昼の事を(そし)られ始め、アムステルの纏う空気が一変する。

隣のフジヤマは「あちゃー」と小さく呟いて額に片手を当てた。


「そこまでおっしゃるのでしたら喜んでご披露いたしましょう。闇魔法らしい魔法陣を今思いつきましたので」


と、彼女はその神官に向けてとびきり微笑んだ。どこから取り出したのか、手には美しい漆黒の両手杖。それを用いた彼女は踊るように地面に魔法陣を描き、歌うように詠唱し、昼日中(ひるひなか)の王都をすぐさま夜にしてみせた。

半径5メートルほどの大きな魔法陣は魔法発動と共に消えていた。


魔法を紡ぐ彼女は妖艶で、フジヤマ以外のその場の誰もが目を奪われ放心し、しばらく動けなかった。


「では失礼いたします」


彼女は美しく一礼しローブを翻すとフジヤマを連れて去っていった。


その後。

朝の来ない夜が5日ほど続いたところで、アムステルが滞在している冒険者宿まで乗り込んできたラハエル王太子に「やりすぎだ!」と怒鳴られ、彼女は舌打ちしながら指をパチンと鳴らし、ようやく魔法を解いたという。


***


『お前は放っておくと碌なことをしない』


ラハエル殿下は翌日からアムステルに孤児院での教師の仕事を当てがった。断ることも出来たであろうが、アムステルは渋々これを受け、以来3年ほど孤児院に通っている。

今は子供達とも慣れ、なかなかの教師ぶりだという。


「すごい魔法」


ノアは話を聞き呆気にとられた。


「範囲はきっちりこの広い王都内。白壁の外は通常通りに日が昇り、王都の門兵達は門の内と外での光景の違いに目を白黒させていた。王都内の民達には思いの外受け入れられ、祭りのような5日間だったそうだ」

「確かに、ずっと夜ってちょっと楽しそう…。アムさんはその魔法を準備してたのかな?」

「いや本当に即興で思いつきだったそうだ。自分の事ならまだしも、俺と真昼の事を悪く言われてカチンときたと言っていた」


アムステルらしいとノアは笑った。

自分が舐められるのは作戦の内だが、その嘲笑が仲間に向いた途端にアムステルの地雷となる。前世のネットゲーム中も幾度かそんなアムステルを見ている。

自分達がアムステルに全幅の信頼を寄せるのはこういうところだ。

彼女はギルドメンバー以外にも優しく楽しい人柄であったが、ギルドメンバーとそれ以外には常に明確な差があった。そこは決して平等ではなかった。


『仲間を依怙贔屓(えこひいき)するのは当たり前』

『お前達は私の特別だ』


彼女は常に俺達を特別扱いし、それが自信に繋がり、彼女を信じ、同じ気持ちを返そうと結束力や誇りとなった。

エンジョイ勢ばかりの小さなギルドが周りから一目置かれる存在であった理由はアムステルのそんなカリスマ性の成せる技だったのだと思う。


やっぱり楽しい。

また会えて嬉しい。


『ぐるぐる悩むな、とりあえずやってみろ』


前世でのアムステルからの言葉を思い出す。

思い切って村を出てきた自分をノアは少しだけ誇らしく思えた。

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