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ノアの転生者鑑定

読んでいただけて嬉しいです!

王城内が俄かに色めき立った。

遅めの昼食を食べていた黒狼の獣人、ヴァンシー・モロゾフは耳を立てる。その自慢の毛並みは艶やかな黒。

彼は騒がしさの原因を探ろうと中庭から見える景色を眼帯をしていない右の水色の瞳でぐるりと見渡す。すると待合室に続く渡り廊下を王城の従騎士に従い歩くムカつく桃色髪が目にとまる。思わず顔を顰めた。

その後ろに続くフジヤマ、その隣に見覚えのない黒髪の青年が見えた。

予想される状況はひとつ。

なるほど城内が騒ぐはずである。

「またかよ」と小さく呟いたヴァンシーは残りのパンを口に放り込むと身軽な体を翻し、愛しい婚約者の待つ自らの職場へ戻るため最短距離を突っ切った。


***


「な?兎と犬だろ?」

「すごい。尻尾すごい」


儀式の準備が整い、文官に丁重な案内を受けアムステルたち3人が鑑定の間に通された。

『ノア』と名乗った青年とアムステルがコソコソと話している内容は狼の獣人ヴァンシーの耳にきっちり届いている。


(犬って言ったな、コノヤロー)


と、いう悪態は微塵も面に出さずヴァンシー・モロゾフは無表情を貫いていた。

ヴァンシーが動くたびに漆黒の立派な尾が揺れる。ノアにはそれが珍しく楽しいらしい。


アムステルとフジヤマに付き添われ、ノアは転生者鑑定に訪れた。

ここは王城内にある『鑑定の間』

王族関係者が15才になりギフト鑑定を受ける際に使われることが多いが、本来は転生者か否かを視るために作られた王城内でも神聖で特別な部屋だ。

古くから王城ギフト鑑定士を担う家系、ユーハイム家の次男ギルバートと、そこに虚偽がないかを監視する役割のヴァンシーの本来の職場だ。

とはいえ、鑑定の仕事は頻繁にあるものではないので普段は隣の執務室にて事務的な仕事をこなしている。


ヴァンシーはちらりとアムステルを見やった。相変わらず機嫌良さげなニヤけた顔に少々腹が立つ。

そのアムステルの突然の来訪に、嬉々とした表情を見せるギルバートに視線を移しヴァンシーの内心は大変に複雑であった。

ギルバート・ユーハイムは白兎の獣人だ。頭上の白い耳は美しく、長く伸ばされた白き髪。いつも静かに笑みを称え、聡明で平等で清廉だ。心を波立てることは少なく穏やかな人柄だと感じていたが、アムステルを目の前にすると明らかに嬉しそうだ。本人は隠しているつもりなのかもしれないが、全くもって隠れていない。

常にギルバートの傍にいる俺から言わせるとダダ漏れだ。

俺はそれが気に入らない。

と、いうかアムステルが気に入らない。


「では始めたいと思います」


後方に立つヴァンシーにギルバートが目を向ける。ひとつ頷きヴァンシーが自身の左眼の眼帯を外した。現れた瞳の色は金。右眼は水色なので初めて見るものはその対比に目を瞠る。アムステルも最初にこの双眸を見た時、驚いたように何か言い掛けたが結局は何も言わずに、何故か優しく微笑んだだけだった。

この金色の左眼は虚偽を見破るギフトであり、この瞳に映す者が嘘をつくとヴァンシーの意思とは関係なく拘束魔術が発動しその者を捕える。

呪われた瞳だが、この眼のおかげでギルバートの婚約者となれた今がある。彼の傍にいられるのだ。幼少期は色々あったが、今はこのギフトをくれた女神に感謝すらしている。


「ノア様、何も恐れず心穏やかにそちらに立っていてください」

「はい」


ギルバートがノアに意識を集中すると同時にヴァンシーはギルバートに金の瞳を向けた。

その時、ギルバートが些少な動揺をみせた。他の誰も分からない。ヴァンシーしか感じなかったであろう、ほんの少しの心の揺らぎ。

この感じは知っている。以前にもあった。

ヴァンシーが思い出すまでもなく、ずっと忘れずにいた光景。そうそれは、そこの長椅子に座っているアムステルの転生者鑑定の時だ。


***


転生者鑑定希望者はたまに訪れる。

だいたいの者は鑑定の間で我々が物々しく鑑定準備を始めると怖気付き下手な言い訳をして辞退していく。

一生涯の高待遇を期待してワンチャン騙せるのでは?と登城してきた嘘つき達だ。

そもそも自身のステータスは各々で確認できるのだから「勘違いでした」が発生するわけがないのだが、我が天使ギルバート様は

「そうですか。ウッカリは誰にでもあることです」と帰してしまう。

転生者詐称は重罪なのだから、そんな奴らは全て捕らえてしまえば良いのに、なんて慈悲深い。そして美しい!!


9割以上はその手の奴らだが、ごく稀に本気で思い込んでいる者もやってくる。そいつらこそが厄介で、自分のステータス項目にも鑑定結果にも納得出来ず「インチキだ!」と鑑定士であるギルバート様を責め立て、王城騎士達に抱えられ、ようやく城から摘み出される始末だ。

ギルバート様は困ったように笑うばかりだが、実際は投げつけられた心無い言葉に傷ついている。

長年ずっと傍で彼を見てきた俺には分かる。彼の繊細な心の機微が。

だから分かってしまった。アムステルを鑑定した、あの時の僅かな動揺。

表情はいつも通りだった。警備でついている騎士達には分からなかっただろう。

アムステルを視た時、ギルバート様は何かを目にしたのだ。転生者であることとは別の何かを。

確かに、ギルバート様が鑑定士になって本物の転生者が現れたのは初めてのことだ。しかもあろうことか同時に3人だ。過去にそんな例などない。動揺もするだろう。

でも、明らかにそれだけでは無かった。

アムステルのステータス項目に何かあったのだ。

しかしギルバート様は「転生者様です」と報告しただけであった。

嘘はついていない。転生者を前にしたギルバート様の職務は相手が転生者であるか否かの鑑定結果を王に伝えるだけであり、ギフト内容に何があろうと伝える義務などないのだ。

王家に忠誠を誓っているギルバート様が『黙っていてもこの国の不利益にはならない』と判断したということだ。

もとよりそのつもりだが俺の方針も変わらない。黙ってギルバート様に従うまでだ。

そのことについて特にこちらから彼に問うこともなく、ギルバートも話すことはなかった。


***


あの日からだ。ギルバートがアムステルに心酔するような目を向けるようになったのは。


(思い出したらまたムカついてきた)


「ノア様、お疲れ様でした。王城ギフト鑑定士ギルバート・ユーハイムの名において貴方が転生者であることを証明致します」


と、言い終わるか終わらないかのタイミングでギルバートはアムステルに目を向けた。アムステルが小さく頷き、ギルバートもそれに頷き返した。

その様子に眉を顰めつつ左眼を再び眼帯で覆ったヴァンシーにギルバートから声がかかる。


「ヴァンシー。陛下に…いえ、ラファエル殿下にお目通りの申し立てを。お忙しいようであれば執務室でお茶会のような形が良いでしょう。ノア様をご紹介いたしたいと伝えてください」

「えっ!」


驚いた声を上げたのはノアだった。


「はい。すぐに伝えて参ります」


ヴァンシーは扉の前でひとつ礼をするとすぐに鑑定の間を出ていった。

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