竜たちの終の住処
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ヤトノカに連れてこられたのは美しい森の中にある大きな湖のほとり。
碧く輝く湖にも目を奪われるが、周囲の木々達も木漏れ日に照らされ黄金に見える。
気温は程よく、細やかに吹き抜ける風が心地よい。至る所に小動物の気配を感じる。豊かな森なのだろう。
そこにはつい溜め息が出てしまうほどの眩い景色が広がっていた。
「ここは、初めて訪れた」
アムステルはこれまで眷属を使っての調査はもちろんだが、自らも方々に足を運んでこの世界のことを色々と調べていた。しかし、ここらしき森に辿り着いたことはない。
「竜の加護や竜の招きがなければ見つけられぬし、入ることもできない。ここは
死んだ森、深傷を負った竜達が傷の癒やしに立ち寄ったり、その生涯を終える際に訪れる森だ」
不思議な場所だった。ふと目を向けると、湖から少しのところに一軒のログハウスが見える。周りの草木と調和したそこは、まるで一幅の絵画のようだった。
見惚れているとヤトノカが口を開く。
「かつて竜と人が契りを交わした森。2人はここで子を成し、穏やかに暮らし、生涯を共にした。死んだ森とは言っているが、きちんと時は進んでいる。ただ、季節はずっと秋だ」
「すごく、綺麗な森ね」
「真昼!見えるのか?」
静かに呟いた真昼にフジヤマが慌てて問いかけたが真昼は小さく首を左右に振る。視力が戻ったのかと思ったが、そうではないらしい。
「見えないわ。でも見える。ここはキラキラと輝いて。命が瞬いてる、素敵な所だわ」
真昼は白く濁った目を輝かせて辺りを見渡している。白銀の長い髪が風に揺れる。
「フジヤマの番には妖精の加護があったな」
「はい、真昼といいます。妖精の愛し子のギフトを授かっています」
真昼が答えた。赤い妖精は今は姿を消している。
「妖精はあらゆる命の光と淀み、魔力の動きを正しく見ることができると聞く。ここにいればじきにその感覚にも慣れるだろう。視界は奪われたようだが、今までのようには見えずとも不自由はあまり感じずに暮らせるようになるだろう」
「そこまで考えて連れてきてくれたのね。ありがとうヤトノカ」
真昼の礼にヤトノカは頷いて返した。
「ここなら邪魔なものの耳は仕掛けられない。安心して話すが良い」
アムステルが頷き、フジヤマと真昼はヤトノカに寄りかかり、話を聞く姿勢をとった。
どこから話そうか…と少し考えてからアムステルが口を開いた。
「まず、前世で私が勤めていた職場は身嗜みについて自由な社風でね。髪色や目の色を頻繁に変えていたんだ」
それで、とアムステルは続ける。
「この桃色髪と赤い瞳の組み合わせはあの夜、みんなと飲んだあの日の一度だけだった」
「なるほど、つまりあの夜の記憶の切り取りか」
フジヤマの呟きにアムステルの言葉が続く。
「ちなみに言えばノアもこっちに転生してる。私の眷属が確認していて住んでる村も分かってる」
「ノア君も!?やっぱり私達だけではなかったのね…」
「そうなると…あと1人足りないってことか…」
アムステルの首が縦に揺れた。
「そう、あの日あの夜のメンツはあと1人。ネコニャスの消息だけ掴めない。私が思うに、この世界に来ているのはあのオフ会の時のメンバーだ。当然ネコニャスも転生していないはずがないと思う。基になっているのは、あの夜のネコニャスの記憶。だが姿を現さない。そして気になることもある」
一つ区切ったアムステルが言う。
「あのオフ会の帰り道、私はネコニャスに後をつけられた。大袈裟ではなく彼は私を殺す気だったと今では分かる」
2人が息を飲んだ。
「後日『アムさんの家に泊めてもらった』とノアが言ってたのにはそういう背景があったのか」
「うむ。1人じゃ駄目だと思った私は一度ついた帰路を引き返してノアに声をかけた。今の体と戦闘力ならまだしも、非力な前世の私では到底太刀打ちできない。ただ…理由が分からない…。あの人にあんなに恨まれる心当たりなんてないんだが」
顎に手を当て考え込むアムステルの向かいでフジヤマと真昼が何か言いたそうな顔をした。
「思うことがあれば話したほうが良い」
黙って聞いていたヤトノカが2人を促した。
先に言葉にしたのは真昼。
「ネコニャスさんは前世のネットゲームの中で『アムステルさんが羨ましい』ってよく言っていたの」
「私が?なんでまた」
「俺も何度もそれを聞いている。決まってアムさんがログインしていない時だった。『全然、私を構ってくれない』とも言っていた。俺たちから見ればアムさんはギルドメンバーみんなに平等だったから、それが気に入らないようだった」
「そんなことで命狙われちゃうのかよ」
「彼にとっては『そんなこと』ではなかったのかもしれない」
「アムさんのいない時にしか見せなかったけど、その執着心を異常だなと思った時は幾度もあったよ」
『あの人がいなければ私がそこに立てるのに』と言ったこともあるそうだ。
アムステルは困惑の表情だ。
立ってどうするんだ。ギルドマスターになりたかったのだろうか。
「アムさんはいつも飄々として見えたから、労せずにその位置に立ってるとでも思っていたのかしらね。そんなわけないのに…」
皆の言葉が止まる。
腕を組みどうしたものかと唸るアムステルが「思い出した」とばかりに声を上げた。
「協力者がいると思う。それも絶大な力を持った奴が」
「そうであろうな」
黙って聞いていたヤトノカが答える。
「転生者とは女神の気まぐれにより100年に一度程、あるかないかの感覚で起こる言わば奇跡だ。今の話を聞く限り、一度に複数人が転生している。誰かの強い意思と何者かの力によって引き起こされたと言っていい。その何者かは直人ではないだろう。少なくとも女神と同等、またはそれ以上かもしれぬ」
なんとも壮大な話になってきた。
今回を機にアチラが動き出す可能性もある。これはもっと色々と準備が必要そうだ。
「とりあえず転生者鑑定を済ませたら、また色々と考えなくちゃな」
アムステルの言葉に一同が頷く。
「我の認可により、お前たちのこの森への出入りは自由となった。少なくとも真昼はしばらくこの森に居を移すべきだろう。転生者鑑定とやらの後はそこの住居を使うといい。最低限の必要なものは揃っているはずだ」
ヤトノカはすぐそこのログハウスに目を向け言った。
「ここに住めるの?嬉しい!ありがとうヤトノカ!」
真昼が顔を綻ばせた。先ほど視力を失ったばかりなのに、もう気分を切り替えている彼女に流石とアムステルは感心する。
「何かあればすぐに声をかけろ。フジヤマの声は我に届く。いや、面倒だな…我もこの森に頻繁に出入るようにしよう」
そういえば主が頻繁に留守にして飛竜の棲家は大丈夫なのかと疑問を抱きつつ、もうひとつ不思議に思ったことを聞いてみる。
「あれ?フジヤマはヤトノカを眷属にしたのではないのか?」
アムステルの疑問にイイ笑顔でフジヤマが首肯する。
「従える気満々で飛竜の棲家を目指したんだけど、実際に飛竜たちと相対したらなんか違くて…」
ヤトノカがグルルと大きな溜息を漏らした。
「意思疎通に問題はなくとも、喚びよせるとなれば眷属である方が容易いというのに」
ヤトノカは不満そうに言葉を繋げる。
「此奴は我々と『対等でありたい』と言った。全く理解ができないが、まぁ良いだろう。眷属にせずとも総ての竜種はフジヤマのギフトにより逆らえない。もしも抵抗する竜がいたとてフジヤマの一喝で動きを封じることは出来るであろう」
隙はいくらでも作れるから危険な時はそこを叩けと言うヤトノカの体表をフジヤマが優しい表情で撫でていた。
フジヤマがデレデレしている珍しい光景にアムステルは吹き出すのを必死で堪えるのであった。
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