43賢者様助けてください? いや、賢者はあっちだと思うのだが?
「え…………」
突然、現実世界に戻った俺は、終末の化け物と対峙していた。
ボロボロになった親父はぽかんと口を開けて化け物を見ている。
「な、何故こんなところに災害級の魔物が? なんだ、これは?」
「終末の化け物だよ、親父。300年前にこの王国を苦しめた」
「なんだと? 終末の化け物? いや、確かに文献と形が一致……」
考え込む親父、今は共闘すべきだろう。争っている場合じゃない。
「こ、こんな化け物と戦うなんて無理だぁ!」
「おい、こら! 親父、逃げるなぁ!」
親父は貴族の責務である災害級の魔物相手に逃げた。賢者の称号を持つにもかかわらず。
だが、終末の化け物は、親父に向けて尻尾を振るう。
これは当たったな。多分、大ダメージだろう。
「ぽぽぽっぽぽぉ」
親父は訳のわからない悲鳴をあげながら空を飛んでいく。早々の退場だ。
そして、落ちた。観客席のど真ん中に落ちて、白目を剥いて倒れている。
死んではいないな、ならば放置だ。気がついたら、自分で治癒するだろう。
まあ、最初からあてにはしてなかったけど、やっぱりな。
しかし、一人で勝てる相手か?
「お、おい! なんだあの化け物!」
「賢者の奴、さっきから卑怯な手を、まさか賢者が……?」
「いや、まさかそれは……」
観客たちにどよめきが始まっていた。
突然現れた化け物、理解が追いつかないのだろう。彼らがとるべき道は一つ。
俺は貴賓席の第一王子を見た。災害級の魔物に一人で対抗できる唯一の存在。
しかし、彼は貴賓席に腰を下ろしたまま、俺の方を見ていた。
視線が合う、しかし、彼は微笑を浮かべるのみで、参戦しようとも、逃げるというそぶりも無い。
どういうことだ? 驚くでも、助けに来るでもない第一王子。
だが、彼もあてにできないことだけは確かだ。
「ガゴォォォォォォオオア!!」
終末の化け物は、その顎を開き、炎を煌めかせた。
まずい。
直感的にわかる。この化け物は、この広場の市民に向かって、あの炎を吐き出すつもりだ。
そう思った俺は、親父から簒奪したばかりの氷系最大の呪文を唱えた。
「ガァァァァァッァァアアア!!」
終末の化け物の顎から炎が激しく放たれた。誰かれかまわない無差別攻撃。炎を広い範囲に撒き散らすつもりだ。
「わ、わあああああああっ!!」
「助け――」
「ヤダ……!!」
観客たちが悲鳴をあげる。
幸い、炎のスピードは大したことは無い。だが、密集した人混みに炎など撒き散らされたら?
俺はギリギリ間に合った親父に氷の攻撃魔法を唱えた、少しアレンジを加えて。
あの駄女神、この化け物を知っているなら、せめて弱点とか教えとけ!
「神が心を尽くして神を愛する時 過去の罪は赦され……水によって生まれる『「ネーレーイデス・ブリリアント!!」』」
氷の壁が化け物の周りに出現する。親父の氷魔法に、即席で汎用魔法の防御魔法をアレンジしたものだ。冒険者が良く、炎属性の魔物相手に使っているヤツの応用。
彼らはこのアレンジを魔法陣を読み解く訳でなく、ひたすら何度も試行錯誤で手に入れる。
「きゃあああああああ!」
「た、助けて!」
炎が観客たちを飲み込む寸前、氷の壁は完成した。
炎は丸く円筒形に作られた、氷の壁の中を走り回る。つまり、炎は化け物自身を襲う。
「どうにか時間は稼げそうだが……だが、いつまでもつのか……」
俺はこの化け物を鑑定のスキルで見た。
職業:終末の化け物
属性:闇
スキル:爆炎のブレス、闇の波動
どうも、闇属性で、火と闇の攻撃スキルを持つようだ。
とりあえず怖いのは、爆炎のブレスか?
「えああああああああああっ!!」
俺は無銘の剣を抜くと、親父の氷の神級魔法を剣に付与する。そして、防御魔法からあふれてくる炎を切り裂いていく。氷の付与魔法の効果によって、周囲の炎も消し止める。
「えっ……?」
「炎が、消えた……」
「まさか、あのハズレスキルが? 俺たちを守ってくれたのか……?」
そしてざっと炎を消し去った俺は、観客に向けて大きく叫んだ。
「早く逃げて! こいつは――俺が倒す!!」
「う、嘘! あのハズレスキル、か、かっこいい……」
「真の賢者か……?」
観客たちがなんか俺のこと真の賢者だとかなんだとか。
本物の賢者はあっちでのびている親父の方だと思うのだが。
「よし……」
俺は決意を込めて、改めて週末の化け物と対峙する。
何処までやれるから? わからん。だが、俺が負けたらこの王都に被害者が無数に出る。
絶対に負けられない戦いがここにある。
確認すると、ほとんどの観客が避難を開始していた。
もう少し頑張れば、神級魔法を持つ救援が来るかもしれない。
それまでは、何とか。
そして聞こえて来る、観客達の逃げまどいながらの俺への声援。
「負けないで!」
「頑張ってください!」
俺の力を……ハズレスキルの俺を信じてくれる。期待してくれる。
負ける訳にはいかない。
だが。
「何!」
終末の化け物から闇の魔力の奔流が溢れでる。その密度はそれが災害を引き起こし兼ねないものだと言うことを本能にすり込ませる。
「ま、まずい! 闇の魔力による攻撃撒き散らす気だ!」
「任せて!」
突然声をかけられて、驚くが、そこには……仲間がいた。
「アル! 私が光魔法の壁を作る! だから、あなたは攻撃して!」
「リーゼも戦います!」
「俺たちも加勢する」
「アルの旦那! 一の臣下が馳せ参じました。肉壁でにでもなんでも使ってください!」
「兄貴! 一の子分、ダニエルがここを逃げる訳にはいかないですぜ!」
そこに現れたのは、クリス、リーゼ、レオンさん、クラウスに名前の分からない俺の臣下に先日子分にしたダニエルという冒険者だった。
「クリス! 至急頼む! それにリーゼ、レオン、クラウスお願いします。だが、お前、名前はなんて言うんだ?」
俺は今更臣下にした冒険者の名を尋ねた。
「フィッシャーです!」
「フィッシャーにダニエル、お前たちは観客の避難を援護しろ。今はそれが優先だ」
「な、なんで? 俺がハズレスキルだからですかい? それは殺生な話です!」
「そうです。俺達、命なんて! アルの旦那のためなら!」
「馬鹿野郎! 俺がむざむざ臣下や子分を身代わりに使うと思うか? お前たちは俺が鍛えてやる! 命をかけてもらう時がいつか、ある。だが、今じゃない!」
俺はこいつら……ハズレスキルの万年Cクラスの駄目冒険者フィシャーと仲間と上手くやっていけない不器用な冒険者ダニエルを怒鳴りつけた。
彼らの力ではこんな化け物に太刀打ち出来ない、今は。
気持ちは嬉しい、いい子分に臣下をもった、だが今はまだ早い。
「し、しかし!」
「そうです! 俺達が弱いこと位はわかりますぜ、でも旦那の身代わり位!」
俺は二人を見つめると。
「俺がそれを喜ぶと思うのか?」
「だ、旦那」
「……親分」
二人はコクリと頷くと、広場の中央から観客達のほうに踵をかえした。
必ず、彼らに役に立ってもらう。その為には、俺達がここを生き残らなければな。
「みんな…… 俺に力を貸してくれ!」
「当たり前よ。アル、私は貴族よ。こんな化け物相手に……挑むしか無いじゃないの!」
そういうのはクリスだ。クリスの光魔法は治癒だけでなく、他の使い方も習得済みだ。
「そうです。リーゼだって、アル様のお役にたちます!」
リーゼだ。リーゼは汎用魔法を極めて、今では神級なみの術者だ、それも全属性。
「俺も仮にもA位冒険者! いつもアルベルト様に助けてばかりじゃ!」
レオンだ。応援に来ていてくれたんだ。
「アルベルトさんはいつか偉業を成し遂げると思っていた。俺にもその手伝いを!」
これはクラウスだ。やはり、レオンと同様、俺を応援に。
「みんな……ありがとう」
そうこうするうちにクリスの光の壁の魔法が出来上がる。俺の氷の壁と同じ要領だ。
終末の化け物の闇の波動はクリスの光の魔法の壁に阻まれる。
溢れた闇の波動は俺の光の魔法を付与した剣で薙ぎ払う。
観客が逃げ切るまで、しばらくこの状態をキープできれば。
だが、少しでも攻撃しておきたい。
「レオン、クラウス、クリスとリーゼを守ってくれ、クリスは光の壁と、隙を見て、光の攻撃魔法を、リーゼはハイドロエクスプロージョンだ!」
「え? 光の攻撃魔法?」
「は? そんなの聞いたことないぞ?」
「二人は光攻撃魔法が使える、それに魔力を5倍に引き上げる魔道具も装備している。……すまん、説明は後だ!」
そして、俺はレオンとクラウスに光魔法を付与した。
「ひ、光が!」
「何か力が!」
二人とも、戸惑いの表情を浮かべる仲間たちに説明する。
「二人に光の魔法を付与した。あの化け物は闇属性だ。これできっとダメージが入る筈だ」
「ふ、付与魔法って……アルベルト様は賢者以上の……」
クラウスがやや呆れた声で呟く。
「アルベルト様は……全く、突拍子もないですね……」
何故かレオンの声も呆れたような声に聞こえる。何故だ?
「うふふふふふ……これが私の幼馴染のアルよ。誰にも渡さないからね!」
「クリスさん、だから幼馴染は負けヒロインだってば! ヒロインは義理の妹の私が!」
こんな時に喧嘩するな。
……仲間っていいな。とても満ち足りた気がする。だが、いまはそれどころじゃない。
女神エリスですら倒せない終末の化け物。
いまは一致団結して、化け物との戦いに集中しなくては。
「いくぞみんな! ――あの化け物――倒すぞ!!」
「「おおーっ!」」
俺の号令下、終末の化け物との決戦の火蓋が切られた
連載のモチベーションにつながるので、面白いと思って頂いたら、作品のページの下の方の☆の評価をお願いいたします。ぺこり (__)




