38今さら親父が何のようだ?
「坊っちゃま。面倒な客人が来ました」
ランチを堪能していた俺を待っていたのは招かれざる客だった。
屋敷の玄関先から懐かしい、それでいて二度と聞きたくない声がした。
突然の客人は実の父親、いや父親だった人だった。
俺はアポもない、無礼なこの客、父――いや、父だった人に歩み寄る。
「で……なにしにきたんだ。正直、もう二度と顔も見たくない気分なんだが」
仮にも賢者と称される上級貴族に対して無礼な発言だが。アポもなく、突然訪問して来た無礼な客だ。問題ないだろう。今の俺はメクレンブルク家の養子、父より格上の貴族だし。
「…………」
父、ガブリエルは俺を鋭い眼光で見つめると、口を開いた。
「アルか。……白鷲教や災害級魔物討伐の件での活躍ぶりは聞いている。お前は運には恵まれたようだな。幸運の女神にせいぜい感謝することだな」
「忠告か。一応礼を言っておく」
一言も感謝の言葉は発しないが、俺と父の関係で今さらだろう。
「辺境領は人材に恵まれているようだな。その時、Aクラス冒険者が大勢いたらしいな? 冒険者の足を引っ張らないくらいには、おまえも活躍できたわけだ」
「…………」
つまり、白鷲教にしろ、災害級の魔物を討伐したのは周りの冒険者のおかげ……と、言いたい訳だ。それは否定しないが、だがそれよりも、俺が活躍したことを信じたくないのだろう。
父、ガブリエルは一体、何をしに来たのだ?
わざわざ嫌味を言うためとは思えん。
「違います。賢者ガブリエル様。アルはほとんど一人で災害級の魔物も白鷲教の問題も解決しました」
「何?」
口をはさんだのはクリスだった。らしくもなく険しい顔で父を見る。
「まあ、なんと身内びいきか。ケーニスマルク家の令嬢に見染らるとは……全く」
まさか実父から身内びいきと言われるとはな。ともあれ。
「要件は何なんだ? できれば、さっさと帰ってくれないか。今更あんたと世間話する気にはとてもなれない」
「……調子に乗りおって、実の兄の婚約者を寝取っておいて、よくもぬけぬけと」
父はにやりと口角を歪めると、懐から一枚の紙を差し出してきた。
「果たし状だ。立会人は第一王子カール殿下。よもや逃げまいな。我が子エリアスの婚約者アンネリーゼ王女殿下を寝取った恨み、せめて決闘で晴らさせてもらう。10日後、王都のコロッセオで私とお前との決闘を申し込む。それに応じてもらいたい」
「は……」
俺がアンネリーゼ王女殿下を寝取った? 俺は何もしとらん。
「いや待て、親父?」
「お前に父と呼ばれる言われはない」
思わず顔が引きつる。わかっていても辛いものだ。
「それはおいておいて、俺がアンネリーゼ王女殿下を寝取ったって何の話だ?」
全く人聞きが悪い。単に王女が一方的に俺を好きなだけだ。
「エリアスからは王女殿下はお前の元に行くから婚約を破棄すると聞いている。違うのか?」
「……違わない」
俺は意外なところからまんまと元父である賢者と決闘する羽目になった。
貴族には体面を傷つけられた時、決闘を申し込む権利がある。
そして、非常に遺憾なことだが、元父の言うことには一理ある。
客観的に見るとそう思われること位はわかる。
だが。
「いいだろう。その決闘、受けて立つ」
俺は実の父との禍根をここで断つ。そして……
Gカップの我がままボディの王女殿下との縁談を正式に受けることを決意する。
Gカップ……俺が悪いんじゃない。Gカップが悪い。
「アル? あなたまさか王女殿下との縁談を進めるため、殿下と実家との遺恨を断ち切るつもりなんじゃ?」
ギクっ!?
「いや、違うクリス、別に俺はただ」
「ただ、何なの?」
俺は冷や汗がダラダラと出て来た。
「ただ、親父との遺恨を晴らすいい機会だと」
「じゃあ、王女殿下の求愛は辞退するのね?」
「い、いや、それだとGカップがぁ!」
俺は自分の失言にしまったと思ったが既に遅かった。
「この浮気者ぉおおおおおおおおお!」
クリスに何度も電撃をくらわせられる。
クリスは束縛が強すぎると思うのだが。
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