校長室から侵入させられた
3話から読む方のためにキャラ説明
柚木 千景:クール系男子。この作品の主人公。
かなり目つきが悪いせいで基本ぼっち。
新咲 弥生:人の言うこと聞かないが、コミュ力はある。
オカルト好き。座敷童みたいな見た目。
七不思議も大好きで千景を引っ張ってきた。
佐々木 彰:お調子者男子。背がちっちゃい。
泣き虫だがカッコつけたいお年頃。
怖いのも嫌いだが……。
「じゃあ2人とも! 校長室側に忍び込むよー‼︎」
「いやオレ、まだ行くとは言ってない……」
「ここまで来といて何言ってんだよ! ほら行くぞ柚木!」
渋ってはみるが、背中から体当たりされるように佐々木に押される。いくらオレの方が大きくても、高校男子に全力で押されたら動く。
「佐々木、こういうの苦手なくせに……」
「おまっ、黙ってろよそれ! 新咲さんにバレたら恥ずかしいだろっ‼︎」
小声で言ったのに、ばっと口を押さえられる。……まぁ大抵の女子にはバレそうだけど、弥生はノー天気なので別かもしれない。
「俺はこれを越えて、強い男になるんだ……!」
「ただの不法侵入だけどな」
強い意志のこもった表情に、振り向いてそう返せば睨まれた。全然怖くないけど。
なるほど。
それもついてきた理由だったのか。
別に怖がりでもいいと思うけどなぁ。
「ちょっと2人ともー! 何やってんの! 早く上っちゃってー‼︎」
フェンスの向こう側から、弥生が手を振っている。いつの間にか上って中に入ったらしい。田舎なので入りたい放題だ。
「あ、ごめんね新咲さん! ……ほら早く行くぞ!」
返事をした佐々木が、オレが動かないのでまたフェンスに向かって背中を押し始める。
「……佐々木」
「なんだよっ⁉︎」
「弥生のこと、名前で呼ばないの? だからモテないんだぞ」
そう言った途端、背中をバンッと押された。危うくフェンスにぶつかりそうになり、手を前に出してなんとか体勢を保った。
ガシャンッと大きな音が鳴り響く。
「そんな軽々しく下の名前が呼べるかぁっ‼︎」
振り向いたら肩で息をして、顔を赤くしている。古風か。
「わわ、大丈夫ー⁉︎ もうっ! 千景が自分で動かないから、彰くん怒っちゃったじゃないの!」
「……お前は耳も飾りらしい」
「なんですって⁉︎」
フェンス越しに掴み掛かろうとしてくるが、当然できない。なんで佐々木のセリフは聞いてなくて、オレの話は別なのか。
あわてた佐々木が止めに来たので、そのまま仕方なくフェンスを上 (らされ)る。
「それじゃあ校長室にレッツゴー!」
「こんなテンション高く忍び込むやつがあるか……」
腕を上げて宣言して、ぐいぐい前を歩いていく。もうこっちの言葉は聞いてないらしい。都合の良い耳だなぁまったく。
「柚木……」
佐々木が人差し指でちょいちょいと腕を突いてきたので、そちらを向くと少ししょげていた。
「あの……ごめんな? 痛かったか?」
「え? どれの話?」
「どれって言うか、さっきのフェンス……」
「いや大したことなかったから」
なんだそんな事を気にしてたのか。
言いづらそうに言うから、なんなのかと思ったら。小心者の佐々木は、自分がやったくせに気になったらしい。
サラッとそう言ってのければ、今度はなんとも言えないーー強いて言うならキラキラした目を向けてくる。
「お前……カッコいいな!」
「はい?」
「デリカシーはないけど、柚木のそういうところはやっぱモテるやつって感じだ……! 俺、柚木みたいになりたい!」
謎のキラキラした視線に、居心地が悪くなって視線を逸らした。
うん、こういうやつだよ佐々木は……。
そもそも話しかけてきたのも、俺がモテそうだからとかいう話だった気がする。モテるやつは、友達もいるんだよなぁ……。
そういう観察眼がないから。
佐々木はモテない。
そういう事だ。
「なんでオレの周りのやつ、思い込み激しいのばっかりなんだ……」
「ん? なんか言ったか?」
「いやなんでも……」
「なんだよー」と口を尖らせる佐々木を無視して、少し遠くなった弥生の背を追いかける。
「たしかこの辺り……あっビンゴー!」
弥生は校長室の端にある窓をガタガタし始めた……と思ったら、ガラッと窓が開いてしまう。この学校、セキュリティガバガバだな。
「なんで開くの……」
「ふふん! こういうのは下調べが大事なのよ、し・た・し・ら・べ‼︎ 弥生様に感謝しなさいっ!」
「いやそこは褒めてない……」
腰に手を当てふんぞり返る弥生に呆れて返すが、当然聞いちゃいない。
「へー、校長が窓ぶっ壊したって話、マジだったんだ」
弥生を無視するというある意味図太い神経の佐々木は、開いた窓を見てそんな感想を漏らす。
「え、何? 佐々木知ってたの?」
「知ってたっつーか。噂で? なんでも弁償になるっていうんで校長は隠してるから、先生たちは知らないんだってさ」
「見回りあるだろ……」
「んなもん、校長が『見た』って言えば済むんじゃね? 自分で校長室の鍵閉めちゃえばそれまでだし」
そんなものなのかねぇ?
でも実際、不用心にもこの窓が開いていたのは確かだ。しかしどうやったら鍵なんて壊れるんだか。
「よっと! ほらほら2人とも! 入って入って‼︎」
片手を窓について、華麗に飛び越えた弥生が手招きする。
「いや入ったら、ブザーとか鳴るんじゃ……」
「大丈夫だよぉ! ここの警備、ドアにしかついてないから! ドア開けなきゃ鳴らないらしいよ‼︎」
「……不用心だなぁ」
再度同じ感想が、今度は口から漏れた。まぁ家とか未だに夜以外鍵かけないから、セキュリティあるだけまだマシなのか……?
「ま、金目のもんなんてこのおんぼろ校にはないだろうしなぁ……っと! ほら柚木も早くしろよ!」
運動神経は良い佐々木も、軽々と窓を通り抜けた。こちらを向いて、声をかけてくる。
「はぁ……オレ運動できないんだけど」
仕方がないのでゆっくりと。足を上げて、窓を跨いで入る……が。
「はぁ⁉︎ お前跨ぐだけで入れるとかどうなってんの⁉︎ 脚長すぎかよ⁉︎」
「また伸びたのか……私は伸びないというのに……‼︎」
運動神経がないから跨いだだけなのに、何故か嫉妬の炎を向けられた。なんでだよ。
「あの……2人ともオレの話聞いてた……?」
「むーかーつーくー! 身長高いの見せつけてくれちゃってー! さては私の栄養奪ったのね⁉︎」
「これだからイケメンは……! やっぱりイケメンに必要なのは身長なのかよ……‼︎」
うん、全然聞いてないわ。
ぎりぎりと歯を軋ませる2人に、こちらの言葉は届かないらしい。
弥生より大きいのは、性別的にわりと普通な事だし。たしかに弥生のほうが小学生まで少し高かったけど、男子は伸びるもんだ。
あと佐々木の発言に限っては、ほぼ関係ない。佐々木よ、それはお前の誇大妄想でしかない。イケメンなら友達いると思うよ?