お守りをしに連れて行かれる
まー佐々木の言う通り。
怖がられて人寄ってこないんだけど。
そのせいでほぼぼっちなんだけど?
弥生や佐々木は、オレに話しかけてくるくらい社交的だから他に友達がいる。
なので基本、オレは1人ですけどね。
「オレはそこに憧れて声をかけたんだぞ!」
「もう一回殴る?」
「やめろよー! 俺たち友達だろー⁉︎ 俺を殺したら、柚木は友達いなくなるぞっ⁉︎」
握り拳を作ってみせれば、ひーひー言いながら頭をガードされた。
そう。残念ながら佐々木は高校でできた、数少ない友達だ。距離感おかしいせいでたまに忘れるけど。
あとひとつ言いたいのは、別にオレ殺す気はないんだけどなって事だけど。
「オレを殺人鬼扱いにするなよ」
「だってその目は人を何人か殺してる目だぞ!」
「一度失礼という言葉を辞書で引きなよ」
「バカだなぁ。辞書なんて重いモン、持ってるわけないだろー!」
ぱしぱしと肩を叩かれて笑われるが、だからお前はバカっぽくて女子にモテないんだと思うよ。顔は可愛い系で通るはずなのに。
そう憐れみの目を向けていたら、「? なんだよ?」とわかってない顔で首を傾げられた。
ガラガラと扉が開く音共に、担任が入ってきてそれはそこで終わった。
が。
「と、いうわけでぇ! ここに捜索隊を結成しまーす‼︎」
「いぇーい‼︎ ……ほら! お前も盛り上げろよ‼︎」
「……いや、なんでオレまで……」
夜。
しんと静まり返った暗闇は、街灯だけがぽつぽつと光り虫が集る。蒸し暑い熱気が、アスファルトの焼けた匂いを放っている。
田舎なこともあり、遠くに家々の明かりは見えるがひとっこひとり通らない。
テンションの高い2人は、人がいない事をいいことに大変盛り上がっていた。
「いやー! 今回の情報はマジだって言ったじゃん! 高校で行方不明になったっていう話なんだよ⁉︎ これは絶対、七不思議のせいだよー‼︎」
「だから何故、高校に忍び込もうという発想になる……」
セーラー服から打って変わり。ショートパンツにTシャツとなったラフなすがたの弥生はガッツポーズを決める。
灯らせていない懐中電灯を振っている姿に、大きなため息を吐いた。すると、横から小突かれる。
「おい柚木、そんなつまんなさそうにすんなよ……!」
何故かこそこそっと話しかけてくる。
こちらを見上げる、忍び込む気ゼロとしか思えない白T姿の毛玉に目を向ける。学ランの方がまだ目立たないぞ。
「女の子にそんな態度とっちゃダメだぞ!」
「いや、弥生は……というか、なんで佐々木もいるの?」
「なんでって言うなよ! そんなの誘われた場にいたからだろ⁉︎」
もう小声はいいのか。合わせて一応小声にしていたのに、本人は腕を振って抗議してくる。
「そうだよー! 友達を大事にしなきゃダメでしょ千景! 私が誘った場にいたのだから、参加する義務は佐々木くんにもあるんだよっ!」
「あ、義務だったんだ……?」
言われた佐々木は戸惑っている。
明らかに初耳の様子だ。
そりゃそうだ。弥生ルールだから。
「そうだよ佐々木くん! 佐々木くんと私は、千景と仲良くしてあげよう同盟でしょ⁉︎」
「いつから作られたのその同盟は……」
佐々木に詰め寄る弥生に、今度はオレがツッコんだ。流石に佐々木が可哀想だ。
「というか、その場に居ただけの人間を巻き込むなよ」
「えー⁉︎ だって、捜索には人が必要なんだよっ⁉︎」
「それが本当かなんて、わかんないでしょ」
「何おーう⁉︎」
今度はこっちに詰め寄る弥生に、逃げずに睨み返す。
放課後、佐々木と話しているところを弥生に捕まったのだ。懲りない弥生は、オレたちに向かってこう言ったのだ。
『行方不明の子、探しに行こうよ!』
いなくなったというのは、オレたちの隣のクラス1年2組の女子生徒。
忘れ物を取りに行くと言ったきり、帰らなかったらしい。その話は担任もしており、今日なんか早く帰らされたくらいだ。
どうもその子は弥生と同じように、七不思議に執着していたらしく……。
実はその子に限らず、ここ最近この学校の生徒が消えているらしい。本当かは知らないけど。
でも田舎というのは、ある意味みんな顔見知りみたいなもんなので……なかなか人はいなくならない。多分、都会ほどは。
まぁ学内では。
「学校の怪談のせいだよ」と。
そう言われている……と弥生は言う。
オレは聞いたことないけどねその話。誰が言い出したんだか。まぁ友達いないからって言われたら、反論できないですが?
しかしそれをわざわざ夜中に、家を抜け出してまで戻って……。
悪ノリにしても、学校に忍び込むのはノーリスクじゃないのだ。人のこと考えろ。オレはともかく、佐々木は意外と真面目なのになぁ。
白い肌に大きな目は暗く。
ただでさえ黒い瞳は、瞳孔が開いて真っ黒。
弥生が座敷童だと言われた方が、こんな話より納得がいく。
「ま、まぁまぁ! 俺も怪談とか興味あったんだって! ……今更仲間外れにはしないだろ?」
笑いながら止めに入ってきた割に、語尾が小さく目が泳ぐ佐々木。……やっぱり。
「お前、怖いんじゃ……」
「ち、違うからなっ⁉︎ もー楽しみで武者震いしてるだけだからなっ⁉︎ だから1人で、帰れとか言うなよっ⁉︎」
「やめろシャツを掴むな伸びる」
「伸ばされたくなかったら言うなよ⁉︎」
掴んで迫ってくるそれは、必死の懇願だった。ぎりぎりと服を掴む手は少し震えて、釣り上げられた目はなんというか潤んでいる。
お前また泣いてないか……?
なんで怖がりのくせに、こんな夜の学校とか来たんだ。付き合いがいいと言うか、あの場で断ってもよかったのに……。
「そうだよねぇ! 楽しみで震えちゃうのわかるよー‼︎」
空気の読めない弥生は、佐々木の言葉に気分が良くなったようだ。にこにこと、ご機嫌にそんな事を言う。
よく見ろ。
その目は節穴か?
どう見てもわんこが震えてるだけだぞ。
「そ、そうだよね新咲さん!」
「弥生でいいよー! 私も彰くんって呼んじゃおうかなー?」
「! これはラブコメの波動……⁉︎」
アホな佐々木は、ラブコメの波動とやらで震えが収まったらしい。そんなだからモテないんだぞ。