オレの周りのうるさいやつら
書き始めたら、キャラを作り込んでしまいました。
サラッとホラーだけ読みたい方には、3話くらいから読む事をお勧めします。
どこの学校にも、学校の七不思議というものはある。
二宮金次郎の像が動くとか。
3番目のトイレには花子さんが出るとか。
あの階段は上りと下りで段数が違うとか。
そういうたわいもない、どこにでもありそうな嘘みたいな話。
大抵7つなんて揃ってなくて。
7つ目は知ったらダメだからとか言うけど。
実際、誰も知らないんじゃないだろうか。
だからオレも気にした事がなかったーー今日まで。
「千景ー! 聞いた聞いた⁉︎ またうちの学校、行方不明者出たって‼︎」
朝から元気に、そして笑顔で。
席について、カバンから教科書を机に突っ込んでいたら。はしゃぐように不謹慎な事を言って近付いてきたのは、座敷童みたいな髪の女子。
噂好きの弥生だった。
「……はぁ。またお前変な噂仕入れて……」
「変じゃないんだって! 今回はマジモンのマジ‼︎ ちゃんとそのクラスメイトの子から聞いたんだから〜‼︎」
手を振る様子を冷たく一瞥し、視線をカバンに戻す。なんか言ってるけど無視だ。
教科書って、なんでこんな重いんだか。早くうちもデジタル化を……いや、ムリだな。うちただの県立校だしお金ないよねぇ。
バシバシ机を叩かれているが、私は引っ張り上げた今日のお荷物たちを突っ込むのに忙しい。他でやって。
しかしそうもいかず。
痺れを切らした弥生が腕を掴んできた。
「もー! ちょっと聞いてってば‼︎」
「うわ、引っ張んないでよ。ノート落ちたんですけど」
「クールビューティーッッッ‼︎ ノートは拾ってあげるから、そのかわり話聞いてよね‼︎」
……毎回思うけどそのクールビューティーの使い方、間違ってると思うよ。
こいつストレートで黒くて、冷たい態度取られたら誰でもクールビューティー認定しそうだ。何も考えてない。
やれやれとうんざりしながらも、顔を上げてそっちを見てあげる。丁度しゃがんでノートを取った弥生が、くるっと振り向いた所だった。
そしてそのまま、両手で目の前に突き出してくる。
「はい、ノート! ふふん、拾ってあげたんだから話聞いてよねっ!」
「なんでドヤ顔……弥生のせいで落としたんだけど?」
「でも拾ってあげたから!」
シンプルに、理屈がおかしい。
でもまぁ拾ってくれたのは事実なので、「ありがとう」と小さく言って受け取る。その強い心は、少し見習いたいくらいだ。
「でね! 聞いた話なんだけどーー」
弥生はいつもなんかぴょこぴょこしてる。
話しながら謎に揺れていることも多く、今日も揺れている。黒いボブも揺れている。目はきらきらと輝き、大きい。
背も小さいし、動いてないと死ぬ小動物なのかもしれない。多分。
どこがいいのかわからんけど。
まぁ男子にはモテるのかもしれない。
ちっこいし。
実際はこんな残念なあたまだけど、と。そんな事を考えながら、頬杖をついてぼーっと眺めていたら。
「ちょっと! 千景ちゃん聞いてたっ⁉︎」
バンッと机を叩かれて、びっくりした拍子に手の支えから頭がズレた。瞬きした視界には、怒る弥生が見える。
「うわ、急に叩かないでよ……」
「きーてないからでしょーーーー⁉︎」
「いや聞いてた聞いてた」
「うっそだぁ! じゃあ今の話、言ってみてよね⁉︎」
こっちに詰め寄りながら指を差してくる。
無駄に近い。こいつほんと何も考えてない。
目を閉じて、盛大にため息をした後。
「つってもいつものじゃん……」
仕方ないから、口に出してやる。
この学校には、七不思議がある。
それはたわいもない与太話みたいなものだ。
1.真夜中に鳴り響く壊れた人食いピアノ
2.動く理科準備室の人体模型
3.3階使用禁止トイレの花子さん
4.さよならさん
5.プール跡地の幽霊
6.教員用階段の大鏡
例に倣って、7は出回ってない……というか、多分誰も知らないんじゃないかな? オレも弥生が吹聴してこなきゃ知らなかった。
「……だから、その『行方不明』が怪談関係だとか言うつもりでしょ」
「合ってるんだけど冷たいし気に食わないー!」
「それは知らん。そう思うなら来るな」
掴み掛かろうとしてくる弥生の腕を、頭上で払い除けつつ。若干、周りの視線を感じた。
「……いいから、席戻りな。もうホームルーム始まるから」
「千景ちゃん冷たい!」
「その呼び方、やめろって言ってるじゃん……」
「もう今更戻らないっ! ……でも仕方ないから、席には戻る!」
ふんっ! と、怒ったようにスカートを翻して。腕をブンブン振って、弥生は窓際の席に帰って行くのを見送る。なんだかどっと疲れた。
「はぁ……ほんと、せめて朝からはやめろ……」
そう思わずつぶやいて、前髪をかき上げたら。
「いやぁー今日も幼なじみ絶好調じゃん。マジ早く爆発しろ」
通路を挟んで向かい側の男子ーーお調子者の佐々木が、オレにだけ聞こえるように低い小声で睨んできた。
「それリア充に言うやつでしょ……」
「はぁっ⁉︎ お前、リア充じゃないとか言ったらブン殴るぞ⁉︎」
「いやリア充じゃないけど」
そう言ったら、拳が飛んできたのでパシッと手で掴んだ。
おや、佐々木思ったより手が大きい。
厚みのある手はやはり男子のものだ。弥生とは違う。まぁ大きいとはいえ、男子にしては多分ちょっと小さいが。
「ふっざけんなっっ! そして受け止めんな殴られろ‼︎」
「そうは言われましても」
「そうは言われましても、じゃねーんだよっっ‼︎」
随分とご立腹だ。でも殴られそうになったら、誰でも止めるだろうよ。へなちょこパンチだったし。
ブンッと腕を振られたので、そのまま離してやる。
「お前は幼なじみがいる事と、そこから始まりそうなラブコメの予感に! 打ち震えて! 感謝と謝罪をするところなんだぞ‼︎」
「誰に謝罪するんだよ……」
「俺だよ‼︎」
なんでだよ。
かなり理不尽な事を言われて、半眼を向けたら「う……」と唸られた。
「お前のその顔、怖いからやめろよなぁ……」
「理不尽言いながら、殴る方が悪いと思うけど」
「いやもう、圧がすごいんだって……。新咲さんよく泣かないよな……」
「弥生は慣れてるからだろ」
軽く言ってやったけど、茶褐色の目にうっすら涙が見える気がしないでもない。そうやってると、子犬みたいだ。
佐々木は別名、怖がりわんこだ。
きゃんきゃん吠えるくせに、すぐ泣くから。茶色いくせっ毛は、まるでプードル。頭髪検査に毎回引っかかるが、地毛らしい。
しかも体格も女子と並んでもそう変わらないので……まぁ本人は、相当気にしてるらしい。
「俺もお前みたいな、カッコいい男になりたかった……」
「さっき怖いとか言ってなかった?」
「いいだろう一匹狼‼︎」
「おい傷を抉るな」
ゴンッと頭に拳のハンマーを落とせば、「あいたーっ!」と頭を押さえていい声で鳴く。今のはお前が悪いよ。