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白銀の密室  作者: iris Gabe
出題編
5/9

十二月二十六日(日曜日)午前九時十五分

「どなたですか?」

 呼び鈴を鳴らすと、黒ぶち眼鏡をかけたやや小柄の男が顔を出した。極寒の季節にもかかわらずまくっている袖口から、鍛えぬかれた腕の筋肉が露出していた。

まき省吾しょうごさんですか?」

「そうですよ。あなた方は?」

 うさん臭そうにその男は、如月警部補と同伴の恭助をにらみつけてきた。

「私は警察のもので如月と申します」

 警部補が警察手帳を見せると、男は急におどおどしはじめた。

「少々お時間をいただきたいですが。あなたは美原詩織さんという女性をご存知ですか?」

「えっ、聞いたことないですね。そのような名前は……」

 牧省吾の顔は、はっきりと蒼ざめていた。

「そうですか。その女性の携帯電話のメモリーに、あなたの番号が登録されていましたよ」

 牧省吾は両手をあげて観念した。「わかりました。知っていますよ!」

「詩織さんとのご関係は?」

「友達ですよ。知り合ってから二年くらいになるかな?」

「単なる友人ですか? それとも、もっと親密な仲ですか?」

 牧は苦笑いをした。「まあ、調べたければお調べになればいいですが、何も出てきませんよ。意外とお堅いお嬢様だったからな。美原詩織って女は……」

「お嬢様だった……ですか。過去形ですね」

 牧省吾の顔がひきつった。

「すみません。詩織が殺害されたことはもちろん知っています。だから、つい言葉に出してしまっただけです」

「それでは話は早いですね。失礼ですが、ご職業を伺ってもよろしいですか?」

「近くのダンススクールで講師をしていますよ。それ以外には、バックダンサーとして収入を得たりしています」

「なるほどねえ。それで、そのような立派な身体でいらっしゃるのですね」

 如月警部補が感心する素振りを見せた。

「ダンスって、僕にでも簡単にできますかねえ?」

 突然、恭助がしゃしゃり出てきた。それを見た牧省吾は、ふっと含み笑いを浮かべると、恭助に向かっていった。

「もちろん、ダンスは誰にでも楽しめるものですよ。ただ、プロを目指すのなら、毎日のトレーニングと食事管理が必要です。君の場合は、もっと体幹を鍛えないとね」

「それもそうですよね」

 小馬鹿にされたはずの恭助は、意外にも満足そうであった。

「ところで、牧さん、我々の調査に拠りますと、あなたは殺害された美原詩織さんから借金をされていましたね」

と、警部補が訊ねた。

「ちっ、隠しても無駄か……。はいはい、確かにちょっとだけお金を借りたことはありました。でも、そのために僕が犯人であると思われては心外ですね。僕はこれでも一人前の社会人ですよ。その気になればいつでも返済できる何十万程度の金のために、人を殺すようなまねはいたしません!」

「念のために伺いますが、十二月十九日の午前にあなたは何をされていましたか?」

「いきなり、そんな昔について訊ねられてもねえ。ああ、あの大雪の翌日の日曜日ですか。それなら、俺は女と一緒にここにいましたよ!」

「その女性のお名前は?」

菱川ひしかわ早苗さなえといいます。なんなら、僕のアリバイを彼女から訊いてみればいいでしょう。今、呼び出しますから」

 そういうと、牧はポケットからさっと携帯電話を取り出した。

「もしもし。ああ、早苗か……。今、ここに来れるか……? うん、わかった。急いで来てくれ」

 牧省吾はやや得意げになって、如月警部補の顔をにらみ返した。「さあ、もうすぐ彼女がここにやってきます。僕のアリバイをしっかりと確認してくださいよ」

「牧さん、彼女が現れるまで、ここで待たせていただいてもかまいませんか?」

「当然ですよ。あなた方は僕を監視していなければならない。そうしなければ、あなた方と早苗がおち合う前に、僕がこっそりと早苗に連絡をしてしまうかもしれないですからね。じゃあ、中へお入りなさい」

 如月警部補は部屋の中を見まわした。きちんと整理整頓された調度品には、牧省吾の几帳面な性格がにじみ出ている。

「あなたはゴルフもなさるみたいですね」

「どうしてそれがわかりましたか?」

 やや驚いた声で牧省吾が訊ねた。

「いや、そこにゴルフ道具があるでしょう。手入れもしっかりとされているようだし、かなりの上級者とお見うけしましたが」

「そうですね。ハンディキャップは7です」

 牧省吾は得意げに答えた。

「シングルプレーヤーですか! それは相当な実力ですね」

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