表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の密室  作者: iris Gabe
出題編
2/9

十二月十九日(日曜日)午前九時五十分

 小刻みに肩をふるわせながら、坂下祐樹がゆっくりと口を開けた。

「つまり、今の僕は、有力な容疑者なんですね?」

「いえ、別にそうはいっておりません。我々は単にお決まりの手順を踏んでいるだけです」

と、警部補は素っ気なく応対した。

「さてと……、捜査官がそろうまでは、まだしばらく時間がかかります。それまでは現場に入るのもままなりません。せっかくですから坂下さん、それまでに、あなたがご存知の事実を、いくらか話してみてはいただけませんか?」

「わかりました。すみません。かなり取り乱してしまいました」

 逃げ場がないと観念したのか、坂下祐樹は素直に応じた。

「亡くなられた被害者のお名前は?」

美原みはら詩織です。生保会社に勤めるOLです」

「彼女とはいつからお知り合いですか?」

「あれは、五年前です。僕も詩織もまだ大学生でした。合コンで知り合いました。

 僕みたいなさえない男に、彼女のようなすごい美人が好意をよせてくれたのは、とても驚きでした。まあ、三年ほどつき合いましたが、その後別れました。正直、彼女の性格についていけなかったからです。

 素直な時は、とても愛らしいのですが、不機嫌になると、いつまでも一つのことに固執するので、次第に会話が難しくなります。ひとたび、駄々をこねれば、些細なことでも、全く手におえなくなってしまいます。

 残念だけど僕のほうがあきらめてしまった、という感じですね。別れ話は僕から切り出しました。それから何も連絡がなかったので、今朝の電話には本当に驚きました」

「電話……?」

「はい。七時半頃に彼女から僕のアパートに電話がありました」

「その電話の内容を教えていただけませんか?」

「詩織はかなり取り乱していました。これからある男とテニスコートで会う約束をした。でも、話がこじれるかもしれない。そこで僕に立ち会ってもらいたい、といいました。

 とっさに僕は訊き返しました。僕がその場に行っても何もできないけど、それでも行かなければならないのか、と……」

 ここで、青年は少し間をおいた。「そしたら彼女は、とにかく来て、と例の乱暴な口調になって怒鳴りました。

 僕は、わかった、すぐに行くから待っていなさい、と返事をして、あわてて通話を切りました」

「よりによって、テニスコートに呼び出すとは……、かなり変わっていますね」

「ここから彼女の家まではすぐで、僕たちはよくここで待ち合わせをしたんです。

 だから、今、つき合っている男とここで落ち合うという話も、ちっとも不自然だとは思いませんでした」

「それで、あなたがここに到着した時刻は?」

「そうですね、八時半くらいでしょうか」

「あなたのお家からテニスコートまでは、どれくらいの時間がかかりますか?」

「ああ、車に乗れば二十五分くらいです」

「そうですか……。変ですねえ。急を要する電話にもかかわらず、あなたがテニスコートに駆けつけるまでに、実際には一時間近くかかっていますね。それについて何かコメントはありますか?」

「それは……、電話を切ってから急に、彼女のいつもの悪戯いたずらじゃないかと疑念を持ちまして、行こうか行くまいかと悩んでいるうちに、時間だけがどんどん過ぎていったんだと思います。

 ああ、それに道路には雪が多少残っていましたからね。いつもよりはゆっくりと運転したからじゃないかな?」

「なるほど……。現場に着いたときに、最初に何をしましたか?」

「あの……、やっぱり僕は犯人だと疑われているのですか?」

 青年は、亀のように首をすくめた。

「いいえ、そんなことはないですよ」

と、またしても、如月警部補はあっさりとかわす。

「相手の男の車が駐車場にとめられていないか、を確認しました。でも、車は一台もなかったです」

「駐車場から直接コートに向かいましたか?」

「はい。コートに着くと、フェンスの金網越しに、倒れている詩織を見つけました」

「その時、雪の上の足跡はどうなっていましたか?」

「えっ、足跡については何もおぼえていません。詩織のまわりに赤い血がはっきりと見えました。僕はもう無我夢中で、気がついたらコートに入っていたんです」

「そして、彼女の脈を調べた?」

「そうです……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ