十二月十九日(日曜日)午前九時三十分
登場人物
瑠璃垣 青葉 (十七歳) 女子高生。成績は学年トップ。
如月 恭助 (十七歳) 青葉のクラスメイト。
如月 惣次郎 (四十六歳) 警部補。恭助の父。
美原 詩織 (二十六歳) OL。青葉のいとこ。
坂下 祐樹 (二十六歳) 研修医。
牧 省吾 (三十歳) ダンサー。
菱川 早苗 (二十四歳) 美容師。
目次
『出題編』
十二月十九日(日曜日)午前九時三十分
十二月十九日(日曜日)午前九時五十分
十二月十九日(日曜日)午前十一時
十二月二十五日(土曜日)正午
十二月二十六日(日曜日)午前九時十五分
十二月二十六日(日曜日)午前十時三十分
十二月三十日(木曜日)午後四時
読者への挑戦
『解決編』
十二月三十日(木曜日)午後四時三十分
十二月三十日(木曜日)午後四時五十分
十二月三十日(木曜日)午後五時
「大変です。詩織が、詩織が……。たくさんの血を流して、……死んでます!」
突然の通報を受けた如月警部補が、息子の恭助と共に現場に駆けつけると、一人の青年が、フェンスに設置された簡易扉の前で、呆然と立ち尽くしていた。
現場は、高さ四メートル程の頑丈なフェンスで周囲を取り囲まれた遊技施設だった。どうやら、そこはテニスコートのようだ。というのも、二面のテニスコートが横並びに描かれた見取り図がフェンスの金網に貼ってあることから、そのように判断されるわけだが、縦が五十メートル、横が七十メートルもある長方形のこの敷地は、二面のコートにしては相当な広さであるといえよう。
昨晩降り積もった豪雪は、今朝はからっと晴れ上がって、屋外は美しい白銀の世界と化していた。多分に漏れず、屋根のないこのコートも、新雪ですっぽり覆い隠されていた。つまり、見取り図でもなければ、何の遊戯施設なのかは、わからなかったということでもある。
しかし、如月警部補には、この美しい光景を楽しむ余裕はなかった。彼の視線は、敷地のほぼ中央に横たわっている、ある物体に注がれていた。
それは、純白の雪上に残されたおびただしい真紅色の血溜まりの中に、うつ伏せている小柄な女性であった。
「さあ早く。ここから中に入って、彼女を調べてください」
と、簡易扉に手をかけたまま、先程の青年が甲高い声で叫ぶ。
「そこに倒れている方は、もう亡くなっていますか?」
冷静な口調で、警部補が訊ねた。
「そうですよ?」
「失礼ですが、どうしてあなたにそれがわかります?」
「そんなことは……。僕はこれでも研修医です。さっき彼女の脈を調べました。すでに息絶えています。間違いありません」
「あなたが脈をじかに調べた?」
「はい。彼女が……。僕が来たときには、あそこで倒れていて……。血だらけで、あたり一面が……。ああっ……。お願いです。早く確認してやって……」
「あなたの衣服の血痕は、その時についたものですかね?」
と、さりげなく、警部補は青年の上着にべっとりと付着した血痕を指差した。
「えっ、そんな……。ああ、多分そうです。何てことだ。さっき脈を調べたときに、きっと、ついちゃったんだ」
一瞬、驚きの表情を浮かばせたものの、全く悪びれる様子もなく、青年は返答した。
「こんな状況であるにもかかわらず、あなたは救急車ではなく、真っ先に、我々警察を呼び出された。なぜですか?」
この如月警部補の質問に、青年は言葉を詰まらせた。少々の沈黙をおいて、彼は、とつとつとしゃべりだした。
「それは……。どうしてだろう? そうだ、彼女がもう死んでいるとわかったから……。まずは警察に通報しなければと思いました。救急車を呼んでも、どうせ手遅れですからね。それに、検死は早いほうが、死亡推定時刻が正確に定まると思います。僕は、絶対にこの犯人を許せません」
言葉を重ねるにつれて、青年は次第に落ち着きを取り戻しているようにも見えた。
「そうですか。なるほどねえ……。ところで、あなたのお名前は?」
「坂下祐樹と申します。県立病院で前期研修生をしています」
「ほう、それで彼女とのご関係は?」
「そんなこと、どうだっていいでしょう。それより一刻も早く、彼女を……」
扉を開けようとする坂下祐樹の肩を、如月警部補の右手がガシッとつかまえた。警部補の腕力の前には、華奢な青年は一たまりもなかった。幼子をなだめるように、如月警部補がいった。
「わかりませんか? 坂下さん。ここから害者が倒れている地点までの途中には、雪がきれいに積もっています。そして、ここから見るかぎり、雪上に残された足跡は二種類だけ。
つまり、それは――、害者の足跡と……、それから、第一目撃者であるあなた自身の足跡です」