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平原圭伝説(レジェンド)  作者: 小鳥頼人
1巻 平原圭編
21/143

7_予想の遥か斜め上を行く発想こそが成功への道 ①

「また新山って人とやりとりしてるの?」

「オウヨ。ナウダゼ」

 とある日の昼休み。

 今日も今日とて、春の陽気と雲一つない青空に見守られた校舎裏で葵と昼飯を済まし、のんびりとしている。

 その間、新山とチャットのやり取りをしていた。

「人の交友関係にケチをつけるのは野暮だけど、絡む相手は選んだ方がいいよ」

 葵は渋い表情をしながらスマホでアパレルサイトを眺めている。

「右ニ同ジダガ、コレモ社会勉強ノ一環ダト考エテ耐エテイル」

 葵が心配するのはごもっともだ。けど大丈夫。俺はヤツと同じ道を辿るヘマはやらかさない。

 新山とのチャット履歴を確認する。


ゴッドスター:『新山、今日もブサイクな面してんのか?』


新山鷹章  :『ニキビの生産量は増えましたよ』


ゴッドスター:『とっとと皮膚科に行けや』


新山鷹章  :『行ったけど効果がなかった』


ゴッドスター:『医学の力でも手の施しようがないのか。もう来世に期待しろ』


新山鷹章  :『まだ成人にもなってないのにリセットしてたまるか!』


ゴッドスター:『茨の道を行くか。その無謀な覚悟だけは褒めてつかわす』


新山鷹章  :『あっそ。っと、履歴書作らなきゃいけないんだった』


ゴッドスター:『バイトの面接か?』


新山鷹章  :『今日の夕方から新卒採用の面接があるんだよ。それ用』


ゴッドスター:『ほほう。時間と場所、会社名は?』


新山鷹章  :『なぜお前に教える必要が? ちょっと待ってて』


 ピロン。

 スマホの画面をぼーっと眺めていると新山から時間と場所、会社名の情報が提示された。

「フム、今日ノ夕方カ……」

 こんなボンクラ野郎との面接に貴重な時間を割く奇特な会社があることに内心ドン引きだが、たで食う虫も好き好きとかいうけったいなことわざがあるくらいだしな。

 無駄だと思うが精々足掻けや、と返信する。

 それと同時に俺の脳裏ではとある妙案が思い浮かんだ。

「オ……オホホ……ホ……ホ……」

「どうしたの? 何か思いついた?」

 控えめに笑う俺の横顔を見て、葵がスマホの操作を止めて首を傾げる。

「アァ。社会貢献スル絶好ノ機会ヲ見ツケタンダ」

「そっか。詳しくは聞かないけど頑張ってね」

 葵は基本的に束縛しないし深い追求もしてこない。多少の寂しさはあるものの、余計なことを述べてこないので気が楽だ。

 そもそもまだ付き合いはじめて一ヶ月も経ってないので、お互いの深い部分まで踏み込むのは時期尚早だと俺は考えている。

「オウヨ。チョックラ気張ッテクルワ」


    ♪


 決意表明後の放課後。

 目的地に向かうため、早速校内から出ようとする。


「平原圭。今日は部活に参加してもらうぞ」


 その矢先、面倒な人物に声をかけられてしまった。

 陸上部の部長だ。名前は――忘れた。

「お前、この前もナルシスト胸痛きょうつうで休んだだろ。今日はその分の埋め合わせをしてくれよ」

 どうせお前はあと数ヶ月で引退する身だろ。そこまで神経質にならなくてもいいんだがな。

「ナーニ、天才ガタカダカ数日休ンダトコロデ、才能ナシノモブドモニ抜カレルコトハネェヨ」

「分からないだろ。それにお前は長距離ランナーのエースだからこそ、尚更皆に示しをつけないといけない立場だとは考えないか?」

「俺様ガ不動ノスペシャルエースナノハ揺ルギナイ事実ダガ、ダカラコソ陸上部ニトドマラズ現代社会ニ示シヲツケル必要ガアルノダ」

「は、現代社会?? あとさ、俺は一応先輩だからいい加減にタメ口は直してくれよ。お前も学校で余計な角は極力立てたくないだろ? 敬語を覚えようよ」

「俺様ニタテツク輩ハ全テ返リ討チニシテヤルダケノコト」

 物事を解決するために必要な武力行使ってやつもあるんだよ。

「そんなことばかり言ってると、俺らが引退してお前が最上級生になっても誰もお前についてこないぞ。自ら一人ぼっちを続ける道を選ぶのか? 今ならまだやり直せる」

「俺ニハ常ニ信者ガイルカラノープロブレム」

 相変わらず部長はお節介だな。これぞ、ありがた迷惑。

「あぁそう……とにかく、部活はちゃんと出てくれよな」

 部長は溜息をいて頭を掻いている。おいおい、風呂は毎日入ろうな。臭いは清潔感が失われる重大ポイントだぞ。老若男女問わずあらゆる人間から敬遠されるんだぞ。

 そこはスルーするとして、部長がしつこいので俺もそれ相応の対応をすることを決意。

「仕方ネエナ。荷物ダケ取ッテソノ足デ向カウワ」

「頼むぜ。陸上競技は個人競技のようで、その実、チームワークが必須だからな」

 部長が訳分からんことを抜かすが、その熱意に降参のジェスチャーをする。

「分ーッタ分ーッタ、先ニ向カッテロ」

 俺は窓を指差しながら自分の教室へと踵を返す。

「…………なんであいつは校舎裏を指差したんだ?」


    ♪


 そんなわけで現在駅前。

 なぜか? 当ったり前出翔(まえでしょう)! 高校の部活動ごときよりもっと大事なイベントがあるからだよ。それが目の前まで迫っているのに、とぼとぼと部活なんぞに足を運んでいられるかってんだ。

「哀レデ無様ナ年上ヲ救ウノモ救世主ノ使命ナリ……」

 熱い想いを胸に電車に乗り込み、目的地へと向かった。


 …………が。

「オッカシイナ。全然辿リ着カネェジャネェカ」

 イベントの舞台となる駅にて下車後、新山からもらった住所の情報と電柱に書かれてる住所を照らし合わせながらひたすら突き進むも、一向に目的地の建物に辿り着かない。

「アイツ、偽リノ住所ヲ教エヤガッタカ?」

 そうだった場合、あとでどうなるか分かってんだろうな、新山ぁ!

「コウナリャ、イツモノミラクルパワーデ到着シタルワ!」

 俺は持ち前のスタミナとド根性で辺りを手当たり次第探すことにした。女と同じで建物だって、数打ちゃいずれは当たるもんよ!

「新山ァ!! コノ俺様カラ、一生逃レラレルト思ウナヨ!!」

 俺の美声が街中まちなかに響き渡った。


「……サスガニ疲レテキタゾ」

 数打てど一切合切ヒットしない。プロ野球だったらそれなりの打席数で打率0割の場合、長期二軍幽閉を命じられる成績だぞ。

 おかしい。これだけ探しても見つからないとか、情報が間違えてるんじゃないのか?

 前科持ちの無能な新山のことだから十分あり得そうで不安しかない。

「アイツ――会ッタラ火炙リノ刑ニシテヤル」

 新山への折檻を固く心に誓うのであった。

 苛立ってばかりいてもしゃーない。

 引き続き探すか――


「君、さっきから何十往復もしてるけど迷子かい?」


 右足を踏み出そうとした瞬間、店前にいる古本屋の店主に話しかけられた。

「コノ歳デ迷子ハネーッショ」

「交番の場所は教えなくて大丈夫なんだね?」

「教エラレタ方ガ大丈夫ジャネーワ――コノ住所ニ向カイタインダガ」

 スマホで新山とのチャット履歴を店主に見せる。

「この住所――ウチの店の真向かいの雑居ビルだよ」

「マジッスカ!?」

 めっちゃ駅チカじゃん! 徒歩二分くらいじゃん! そんな好立地を探し求めて正味一時間以上かけちまったのか。

 ま、どんな天才でもミスを犯さないってのはあり得ないわけで? 致し方ないよな!

「地図アプリって知ってる? それ使うと便利だよ」

「ソンナモンニ頼ラナクトモ、電柱カラパパット探シ当テルノガ一流ノ男ノ技術力ヨ」

「アナログ主義を頑なに貫いた結果、見つけられなかったようだがな」

 店主はケラケラと笑っている。ツボにはまる出来事でも思い出してるのか?

「イヤァ~ワザワザ悪ィナ。ヘイテェエシュ! オ礼ニ百円ノ本ヲ一冊買ッタル」

「まいどあり~……って、その本読めるのかい?」

 やけに日焼けした中国古典を購入。

 全ての文字が漢字表記で現段階では解読不能だが、暇な時にでも俺が視線を送り続ければ読めることだろう。

「俺様ハアノ平原圭ゾ!? 夜食後ニ決マッテオロウ」

 わざわざ名を公表したのに、店主は知らんとばかりに首を傾げて顎に手を当てて、

「夜食後って、絶対読めないよね?」

 心底どうでもいいところにツッコミを入れてきやがった。

 真の英雄とは、民衆が油断して寝静まった頃に動き出すんだよ。

「俺様ハ早熟後ニ再度返リ咲クタイプナンデナ」

「そ、そうか。熟しすぎて熱まで起こさないようにな……」

 店主は若干顔が引きつっているが、恐らく俺の気高い雰囲気にのまれているんだろうな。

「協力感謝スル。ヲ前ノ未来ハ光リ輝イテイルコトデアロウ」

「あ、あぁ。俺はもう中年だから未来もへったくれもあったもんじゃないけどな」

 古本屋のオヤジに礼を言い、俺は肩で風を切りながら雑居ビルへと向かった。


「あの雑居ビルには中小企業のテナントしかないけど、高校生の彼が何の用だろう?」

 店主が何やら言っていた気がするけど意に介さないぜ。


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