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平原圭伝説(レジェンド)  作者: 小鳥頼人
1巻 平原圭編
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13/143

4_貴族と庶民との距離は遠いようでやっぱり遠い ③

「オイ貴様! クレームダ! 心シテ聞ケ!」

「は、はい! どういったご用件でしょうか?」

「ナンデドリンクバーニコーラガナインジャイ!?」

「大変申し訳ございません。当店ではご用意しておりません」

「受付デ俺ノ顔ヲ見タ時ニコーラヲ用意シヨウトハ考エナカッタノカ?」

「全く思い至りませんでした。ペプシでご容赦頂けないでしょうか?」

「コ、コノイケメン低燃費系店員メェ。俺様=コーラハコノ世ノことわりダゾ。覚エテオケ」

「は、はい」

 経費削減で安い時給でバイト募集をするから質の低いバイトか、時給以上の仕事はしない意識の低いバイトしか応募してこないんだよ。

「他ニモアルンダゾ! 採点マシーンノ採点ガオカシイ! イカサマシテヤガルナ?」

「してませんし、それは我々では対応できません……」

「無能ガ! 店長出セ店長!」

 バイトではお話にならない。店長と直接やり合って主張を押し通してやる。

 するとイケメン店員が苦笑いしながら自身の顔を指差した。


「私が店長です」

「マジカヨ」


 まさかのこいつが店長だった。

 どう見ても二十歳そこそこにしか見えないが、サービス業界は闇が深そうだ。

 ま、それはそれこれはこれ。店舗発展のためにも、ウィークポイントは指摘してやらないとな。

「俺ガ一番許セネェノハヨォ、アンタノスマイルガ貰エナカッタコトダヨ!!」

「マイ、スマァイィルゥ……?」

 店員改め店長が何言ってんだこいつ的な視線を俺に浴びせるが、んなもん関係ねえ。

「スマイルクレナイ、機械クソ、コーラモナイ。コラーーッ!!」

「も、申し訳ございません。私のスマイルで穏便に済ませてはいただけないでしょうか?」

 こんな男のスマイル一つ如きで機械とコーラのイライラが解決するわけないだろ。


「――ニコッ(天使の微笑)」

「ドキッ!! ……ハイ、僕ガ全テ悪ゥゴザンシタ」


 おい、相手は男だぞ。なぜ、こんなにも心臓がバクバク暴れてやがんだ?

 だがおかげで俺の機嫌は完全に直り、それどころか上機嫌と言っても差し支えないほどに気分が良くなっていた。

「オソルベシ、エンジェルスマァイィルゥ……」

 というわけで他に店長と絡む用件もなくなったので、身体を180度回転させて歩を進める。

 と、その瞬間に二人組の女性客と衝突し、片方が持っていたコップからペプシが俺の服にぶちまけられた。

「す、すみません……!」


「天使ノ微笑ミ、デース。オ気ニナサラズ(ニッチャァネッチャァ)」


 相手は縮こまっていたが、俺はエンジェルスマイルを返した。

「ほ、本当にすみませんでした」

 俺の微笑を見て、相手はビクッとしながらもペコペコして去っていった。

 今の俺は菩薩ぼさつの心を持ち合わせているのだよ。


『あの人、なんでニヤニヤしてたんだろ』

『ニッチャネチャしてたね』

『それに格好が奇抜すぎなかった?』

『メタラーの恰好をしたつもりが失敗した感じだったね』


 ドリンクバーまで行ったのに水一つ取らずに個室前まで戻ったはいいが、扉を少し開けたところで声が聞こえてきた。


「圭の歌酷いなぁ」

「あの世に連れて行かれるかと思ったわ」

「ははははは」


 メンバーどもは俺が盗み聞きしているとも知らずに俺をディスってくれていた。

 どうやらコイツらも平原圭様嫉妬の民だったらしい。

「ソレガヲ前等ノ本性カ!」

 俺がゴージャスに扉を開け放つと、民衆どもは慌てて会話を打ち切りやがった。

「け、圭! 今の聞いてたのか?」

「オウヨ、シカトコノ耳ニ焼キ付ケタゾ」

 俺は両耳たぶを人差し指でぷらぷら揺らしながら答える。

「圭の歌が個性的だってみんなで話してただけだよ」

「聞ク耳持タン牛タン豚タン葵タン大シュキ!」

 そして俺はこんな状況下でも一人我関せずヘビメタを歌い続ける永田大地に殺意を抱き、機械の演奏中止ボタンを押して演奏を打ち切り、代わりに国歌を十回連続で予約する。

「今カラ全部コレダケ歌エヤ」

「てめぇ何しやがる!」

「ヲ前等ノ人生モサッサト中止サレルトイイナ」

「他人が歌ってる最中の演奏中止はマナー違反だ!」

「ヤレヤレ、時間ノ無駄ダカラ止メテヤッタンダ、感謝シテホシイゼ」

「てめぇさっきから――もう我慢ならねぇ!」

「オオウッ!? ヤンノカ永田大地! 上等ダゼ! コノフィールドデ今マデノ分マトメテ決着ツケタルデー!」

「はっ、お前が一度たりとも俺に勝てたことがあったかよ」

「今日ガ初勝利ノ記念日ダワボケラッシャーーーーーーッ!」

 俺は平手打ちを繰り出すが、永田大地にかわされる。


「ウヲヲヲヲヲヲオオオオオオッ!!」


 俺の攻撃全てが避けられ、壁にぶち当たるためにバンバンバン! と激しい音が響き続ける。

 しばらくの間そんな攻防を繰り広げていると、唐突に扉が開け放たれ――


「おんどりゃ吠えながら壁ドンドンドドンパとうるさいんじゃ!! 喧嘩売ってんのか!?」


 とても怖そうなお兄さん数名が室内に乱入してきた。

「叩いてたのはどいつだ!?」

 パツキンピアス刺青のお兄さんがメンバーを一人ずついかつい瞳で睨めつけるが、反応する者はいない。

 まったく誰だよ、そんなはた迷惑な真似した輩はよ。

「ヲイ誰ガ犯人カ知ランケドヨ、正直ニ名乗リヲ上ゲルベキダゼ」

「お前が犯人じゃい」

「ハァッ!? 無実ノ俺ニナスリツケル算段カ!? 俺ヲスケープゴートニスルノモイイ加減ニシロ!」

「いやマジでお前だし」

「ヒャ~ヤアアアアアアアッ! ヲ待チクダサレ! ボクチャンダケハ見逃シテクダサレ!」

「……ん? その腐った声――さっき響いてきた声と同じだな」

「さっきから言ってる通り、こいつ一人の犯行ですよ」

「貴様等ッ!? 一蓮托生ノ盃ヲ交ワシタアノ日ノ星空ヲ忘レタカ!?」

「んなイベントなかったわ」

「ほうほう。ならお前を教育してやればいいんだな。人様が不快な思いをする行動をしないようにな……!」

「そりゃあいい! 協力しますよ!」

「おっ、ノリいいね! 共闘と行こうかオラアァッ!」

 おのれ永田大地! あっさり長いものに巻かれて寝返ってんじゃねえぞ!

 なぜか7対1のハンデで俺がいびられることになっていた。国家ぐるみで正義を抹消するこの現代社会は腐敗している!

「ダアアッ! ウルッセ! アアアアソウカヨナラコッチダッテ考エガアルゾ。モウ面倒ダカラ全員ボコッテヤル。覚悟シロ!」

 そう咆哮ほうこうして俺はマイクの取っ手部分を口に入れてイキリヤンキーに突撃する。

「ホヘヘホフハヘファ~ファ!(これでも食らえヴァ~カ!)」

「……お前バカか? マイクを鈍器にするならともかく、口に入れて突っ込んでくるだけかよ。んなもん怖くもなんともないんじゃ!」

「グボジッ!」

 イキリヤンキーは俺が咥えたマイクのヘッド部分を思いっきり肘で突いてきたため、マイクが俺の口の奥まで押し付けられ、口腔に痛みが走る。


「そんなに叫び暴れたいなら痛みで実現させてやるよ」

「ヒ、卑怯者ドモメガァ――――ウガガガガガガッヲッオォホォーーーーン!!」


 こうして、しばらく生き地獄を味わうのだった。


    ♪


 その後、なぜかウマが合ったのか、永田大地グループとヤンキー軍団は同じ個室でデュエットをはじめた。

 俺はというと、連中から島流しにされ、今は街中で一人涼しい風を受けている。

「風息吹ク。春ハ尊シ。我ガ心。字余リナシ」

 だがこのまま帰宅していいのか? 先ほどのカラオケは機械が認知症で正当な採点がされなかった。それで満足できるのか?

 と、俺は閃いた。

 そうだ。わざわざ機械の採点に頼らなくても、リアル人間どもに生の反応をもらえば解決ではないか。

 思い立ったが吉日、俺は街のど真ん中で自身の美声を大声で披露する。


「凝湯麺~躅鞦韆婆刀土~削躑混湯~~」


 心がない機械ではなく心を持つ人間ならば、この美声を理解し感動の涙を流すことができるはず。

 俺が錆びれたこの世界に感動の渦、尊み旋風を巻き起こす!


『なんだあいつは……』

『服装、顔、歌、全部終わってるな』

『最近変な奴多いよなー』


 人々の目を気にせず、ひたすら歌い続けること数十分。

「NMYH~DFVGR~EHFSBG~~」


「すみません。警察ですが」

「オッオッ、オ巡リサンガドノヨウナゴ用件デ?」


 唐突な茶々が入ったため、独唱を一時停止する。

「ここで不可解な呪文を唱えている不審者がいると通報を受けて駆けつけました」

「ソレハ大変ッスネェ。最近ハ色々ト物騒ッスカラ」

「アンタが一番物騒なんだよ。ひとまず詳しいお話は署で聞きます」

「エッ、俺様ハ警察署ニVIP待遇デ招待サレルノカ? 公僕ノアホドモモヨウヤク俺様ノ偉大サニ気ガツイタカ!」

 独唱こそ強制終了されてしまったが、願ってもない展開がやってきた。これは日本の将来も明るい。


 しかし、署には呼ばれたものの聴取をされただけで、街中でいかつい身なりでテロに等しいらしい歌声を披露した俺は厳重注意を受け、後日学校の教師からも痛烈な雷を落とされた。


    ♪


「先日ハダチドモトカラオケニ行ッテキタ」

「へぇー! 楽しかった?」

「マァマァダナ」

 嘘である。理不尽な生き恥を晒しただけで一日が終わったので不満しかない。

「そういえば圭の歌聞いたことないなー」

「音声アルゾ。聞カセテヤル」

 俺はさりげなく録音しておいた自身の歌を葵にお披露目する。

 再生がはじまり次第すぐに葵は、


「あはは、ファイル間違えてない? これ、お坊さんの念仏だよ」


 可愛くボケをかますが、俺はそれを一蹴する。

「イヤ、紛ウコトナキ俺ノ歌ダ」

「……………………」


 その後、なぜか葵は昼休みが終わるまでずっと死んだ表情で念仏の動画を再生していた。

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