99回敗れても諦めない男
「先生!」
昼休みの屋上。
一瞬は担任の先生を呼び出していた。
「来てくれて有難うございます!」
一は上半身を直角に曲げて頭を下げる。
だから先生が少し困ったような表情をしていることに気づかない。
気づかないまま頭を上げると、単刀直入に要件を述べた。
「先生。自分は貴女の事が好きです。一目見た時から好きでした。付き合ってください!」
再び頭を下げて左手を伸ばす。
告白を受け入れてくれるなら、手を掴むか、肯定の返事をしてくれるはず。
目を閉じたまま左掌と両耳に神経を集中させる。
先生が動く気配を感じた。果たして答えは……。
「ごめんなさい」
一は目を開いて屋上の床に視線を注ぐ。頭は上げられなかった。
「理由を、理由を聞かせてください」
聞きたくはないが、現実を受け入れなくてはならない。
「一くん。私と貴方は先生と生徒の関係なのよ。それに歳も何歳も離れているの」
「そんなの関係ありません!」
先生の顔が耳まで赤くなる。それは嫌悪か怒りか嬉しさかは分からない。
「貴方は気にしないかもしれないけれど……駄目なものは駄目なんです!」
先生は眼鏡の奥に涙を溜めたままそう言うと、踵を返して屋上を去っていった。
その後ろ姿を見ていることしかできない。
伸ばしていた手を引っ込めると、両目から熱い水が溢れてくるのを感じた。
項垂れていると、背後から爆発と衝撃が襲ってきた。
見ると、街で大きな火の手と黒煙が上がっている。
煙に隠れてよく見えないが、二百メートルはありそうな人影が見えた。
オペレーターからスマホに着信が入る。
「コードネーム【コリナイン】貴様の防衛エリアに侵略者の人型兵器が現れた。振られたショックで泣いてないで、さっさと戦え」
一部始終を見ていた毒舌なオペレーターの冷静な叱咤に一は目から溢れる熱い水を袖で拭う。
「今向かいます。それと自分は泣いてなんかいません」
街中でいくつもの爆発が起こり、建築物の瓦礫が一のいる屋上を直撃する。
その直前、屋上で「変身コリナイン!」と言う声を聞いた者はいなかった。
瓦礫を突き破った一は赤いスーツを纏っている。
人型兵器に迫りながら、利き腕の左腕に力を溜めていく。
すると拳から肩口までが光り輝いた。
その光は段々と強くなり、まるで夏の日差しのようだ。
光を放つコリナインに気づいた人型兵器は全身の砲を展開させて一斉射撃を見舞う。
コリナインは避けることもせず突っ込み左拳を人型兵器に向けて真っ直ぐ伸ばした。
砲撃で当たりが爆炎に包まれる中、怯むことなく前進し、彼の持つ必殺技の名前を叫ぶ。
「心臓粉砕鉄拳」
コリナインの必殺技を喰らった人型兵器はまるで流血するように、胸部からエネルギーを噴き出す。
それは胸だけでなく全身や砲口に及び、エネルギーを噴き出したまま爆発四散した。
コリナインは上空で敵の最期を見届けることなく、先生の姿を探す。
見つけた。
先生は他の生徒達と共に、笑顔でこちらを見上げて手を振っていた。
その少女のような姿に胸が熱くなる。
「先生。僕は絶対諦めません」
一は百回目の告白をする決意を胸に秘め、その場を後にするのだった。
―END―