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異世界テーマパーク従業員、副業で探偵やってみた  作者: 夏見
【Case:1】7がつく日の人気者
3/5

1 見知らぬ部屋

 ふと目を覚ますと、俺は知らない部屋の中にいた。体はベッドの上、上には掛け布団。白い壁に花の絵が描かれた、異国情緒漂う部屋だ。

「…あれ」

 体を起こして、窓の外を見た。全く見慣れない景色だった。建物は全て洋風で、東京とは全く思えない。草花が多く、遠くには川も見える。


 な、なんだここは?


「お、起きたか」

 ドアがガチャリと開いて、低い男の声がした。顔を覗かせたのは、30歳くらいの髭を蓄えた男だ。

「お前は、誰だ?」

「お前って失礼だなあ、俺が拾ってやったのに」

拾った、そうか、この男が俺を助けてくれたらしい。

「すみません。あなたが、助けてくださったんですね」

「まあな、礼には及ばねえよ」

男はベッドの横にあった小さな木の丸椅子に腰かけた。

「俺はユジクっつうもんだ。ここのワーパー管理をしてる」

「ワーパー…というのは?」

ユジクと名乗るその男は、顎髭を撫でながら言った。

「お前みたいなやつのことだよ。ワープしてきたやつってこと」

「わ、ワープ…?」

「そう。お前は、お前が住んでた世界から、ワープしてきたっつうわけ。20歳の誕生日にな」

誕生日に、ワープ。俺の頭の中をいろんなことが駆け巡る。

そうだ、俺はバイト帰りに強い光に吸い込まれて、それで…。

「と、いうことは」

 男は頷いた。

「そ。お察しの通り、ここはお前にとって異世界だ。もう元の世界へは帰れない」

え。

「ええええええええ?????」




「…おい。おい!大丈夫か?」

「…」

 俺は同じベッドの上で、二度目の起床を迎えた。

「…あれ」

 開けた目の先にいるのは先ほどと同じ、髭の男、ユジクだ。

「よかったよかった。目を覚ましたみてえだな」

「あれ、俺は…」

「異世界だ、つったら、気を失っちまってたんだよ。そのまま帰らぬ人かと思ったぜ」

「帰らぬ人って、物騒な」

そうだ。俺はいまさっきこの人に、異世界にやってきたと知らされたところだったのだ。

「にしても異世界って…。ツッコミどころがありすぎるし、というか、もう帰れないし、もう、何が何だか…」

「まあ気にすんな」

「気にしますよ、当たり前じゃないですか」

「落ち着けっつうことだ。どうだ、腹が空いてるだろ。飯でも食わねえか」

 確かになんだかお腹は空いている。俺をこんなベッドで寝かせてくれるんだから、悪い人ではなさそうだし、お言葉に甘えるとしよう。

「はい、じゃあ、いただきます」




 ダイニングには、二人分のプレートが置かれた。上には美味しそうなパンとチキンサラダ、そしてスープまである。

「わあ、美味しそうだなあ」

「そうか?」

「異世界のご飯って言ったら、ドラゴンの切り身とか、モンスターの煮付けとか、そういう感じだと思ってたけど」

「漫画の読みすぎだな」

 ユジクは笑いながら、パンを頬張った。俺もそれを見て、パンを一口齧る。優しい小麦粉の風味が口に広がった。やはり見た目通りの味わいだ。

「ここにはドラゴンもモンスターもいない。お前の元いた世界とおそらくほとんど変わらねえ」

「そうなんですか」

「ああそうだ。ここには他にもワープしてきたやつが何人もいるが、みんな不自由なく暮らしてる」

「へえ…。というか、そんな何人もワープしてくるんですか」

「一年に一人か二人だな。お前の前にワープしてきたやつは半年前くらいだった。みんな、トウキョウっつうところからワープしてくんだ。お前もそうだろ?」

「あ、はい、そうです」

「どうやらそこに、ワープホールみたいなのが繋がってるらしいな。それに、ワープしてくるやつは、みんな20歳の誕生日なんだ」

「だから、俺の誕生日を知ってたんですね」

「ああそうだ」

災難な成人を迎えたのは、どうやら俺だけではなかったようだ。

「でもなんで俺が」

「それはよくわからない。こことの親和性がある人間が選ばれるっていう話だが、知らねぇな。とにかくお前は、もう元の世界へは帰れない」

「向こうでは、どうなってるんですか?俺は」

「おそらく死んだことになってるんじゃないかな」

「そうか…」

俺はスプーンを手に取り、一口啜った。するとユジクは、あれ、と一言呟いた。

「なんです?」

「…ショックを受けたりしないのか」

「え?」

「いや。向こうには帰れないと話すと、大体の者はショックを受けるもんなんだ。泣き喚いたりもする。さっきはお前も気を失うくらい驚いてたし、てっきりそうなるんだとばっかり」

「ああ…なんか、それも別にいいかなって。何か未練があるわけじゃないし」

 東京、もとい、元いた世界で、俺は何かを成し遂げたわけじゃない。守りたいものがあったわけでも、楽しみにしていたこともこれと言ってない。名探偵コナンの結末は気になるが、だからと言って泣き喚くほどでもない。

「…そうか」

「あ、すいません。そんな暗い話じゃないっす。何も成し遂げずにダラダラ生きてたってだけなんで」

そう言うと、ユジクはあからさまな作り笑いをした。


「…そういや、お前の名前、聞いてなかったな」

「ああ、すみません。青砥彼方って言います」

「カナタか。いい名前だな。これからよろしく」

「はい。…ところで、これから俺は、どうするんですか?ここに住むんですか?」

「いや、カナタみたいなワーパーは、住む部屋が別に与えられる」

「そうなんですね」

「ああ、そして、就業してもらう」

「…え、就業?」

「仕事をしてもらうっつうことだ」


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