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ぶつかったのはメガネ巨乳女子だったようだ


 エリナに言われた通り、彼女が入口に入るのを見届けてから、オレもそこに向かった。


 もうNNTグループにたどり着いたのだ。あのムカつく女と一緒に行動する必要はない。しかしまあ、あういうムカつく奴ほど不思議なほどに縁があったりするんだが・・・。


 やはり、この建造物はNNTグループの建物らしい。土台部分の建物には、少しくぼんだ部分があって、ここが入口ですよと主張している。案内の紙にもここから入れと書いてある。

 そして、その入口の上に大きな白い文字が取り付けられていた。


 愛と平和のインテグレーター NNTグループ


 そういえば、あのジイさん社長の名刺にも同じことが書いてあった。というか、インテグレータってなんだ?

 まあ諸々の疑問は後でジイさんにでも聞けばいい。とりあえず、この中に入ってジイさんを探すことが先決だ。恐らくは、ジイさんが本当に社長ならば入社式に出席する可能性は高い。

 


「うわ~遅刻遅刻~」


 そう思案しながら突っ立ってると、どこかのアニメで聞いたようなセリフが後ろから聞こえてきた。この展開は・・・オレにぶつかるな。


ドカッ


「あうっ」


 思った通り、後ろから走ってきたであろう女はオレにぶつかった。やれやれと思いながら振り返ると、リクルートスーツを着た女が、派手に転がっていた。


「ああっ・・メガネメガネ・・・」


 どうやらかけていたメガネがどこかに行ってしまったようだ。手を地面にあててメガネを探している。

 その女も、代わり映えのしない就活用のリクルートスーツを着ていた。黒いジャケットに黒いピタッとしたスカート。その下に白いブラウスを着て、黒のカバンを持っている。ここまではエリナとほとんど同じだ。ただ髪型は、肩よりも少し短いくらいで、ショートカットをそのまま伸ばしただけの、就活用とは言い難い感じになっている。顔もほとんど化粧はされていないようだ。ピッチリと髪型も化粧も整えていたエリナと比べて、野暮ったい感じを受ける。

 オレは足元に落ちていたメガネを拾い上げて、その女に渡してやった。


「ほら、メガネ」


「あ、ありがとうございますっ!」


 オレがメガネを渡してやると、その女は慌てて立ち上がり、メガネを受け取る前に深々とお辞儀をしてお礼をいった。

 こいつ・・・おっぱいがデカい!

 お辞儀をした拍子に、重力と振動で胸のふくらみが暴れていた。白いブラウスではそれは受け止めきれないようだ。首元のブラウスの隙間から中身が見えるかも・・・

 オレがガン見していると、その女は頭をあげて、メガネを受け取ってそれをかけた。見ていたことを悟られないように慌てて目をそらす情けないオレ。

 

「ごめんなさい、急いでまして・・・」


 まあこいつも入社式に出るNNTグループの新入社員なんだろう。メガネをかけた女の顔を見てみると、野暮ったくはあるが中々かわいい。目がキリっとしてキツイ感じのあるエリナと違って、全体的に丸くて優しい感じを受ける。例えるなら、エリナがキツネのような顔で、この女はタヌキのような顔だ。身長は150cm前半くらいだろうか。エリナよりも低く感じる。


「いや、気にしなくていいよ。お前も入社式に出るんだろ?」


 オレはその女に向かって言った。こいつとなら仲良くなれそうだ・・・エリナとよりは。


「はい、そうです!あなたもですよね。急がないとあと5分もないですよっ」


「ああ、そうだな!急ごう」


 こいつは、オレがジャケットを着てないこと、カバンを持ってないことは気にしていないようだ。まあ、急ぎすぎて気にするだけの心の余裕がないだけか・・・


 そして二人でNNTグループの建物の中に入った。何と、入口は自動ドアになっていた。くぼんだ空間の中に入ると、下には青いマットが敷かれていて、その先のただの金属に見えた部分がスーッと開いて中に入れるようになった。どういう仕組みだこれ・・・


 中に入ると、NNTグループと書かれた文字と白い壁が見えて、その下にカウンターのようなものが取り付けてあった。この建物の受付らしい。青と白のブレザーのような制服を着た女の人が2人、その中に立っている。その横の、奥に繋がるであろう通路の前には、警備員らしきオジサンが直立不動で周りを睨んでいた。建物の中は、現代の日本のビルの中とあまり変わらないように見える。


「新入社員の方ですね。お名前をちょうだいしてよろしいでしょうか」


 受付の人の一人が、接客敬語でこちらの名前を尋ねてきた。その丁寧さが逆に冷たい感じを受ける。直立不動の警備員といい、部外者お断りという雰囲気をヒシヒシと感じる。会社の受付とはそういうものなのだろうか。


 さっきの女は、リサ・M・ミラーと名乗った。そして次にオレは、名前と姓を逆にして、ヒロキ・タナカと名乗った。この世界では欧米のように名前が先に来るらしいからだ。


「はい、では、リサ・M・ミラー様・・・お名前、確認とれました。事前にお渡しした社員証はお持ちですか?」


 リサはカバンからカードのようなものを取り出して、受付の女に提出した。受付の女はサッと目を通し、


「はい、ありがとうございます。では右手の通路から会場にお進みください。」


 と右手で右のほうにある通路を指した。警備員がサッと横にどける。ただリサは、まだそちらのほうに進まず、こちらのほうを見ている。オレを待っていてくれているようだ。

 ・・・何て優しい子だ!恥ずかしいから一緒に来るなと言い放ったどこかの傲慢女とは大違いだ。


「えー・・・、ヒロキ・タナカ様。お名前が確認できませんが。社員証はお持ちですか?」


 社員証・・・そんなものもらってない。そもそも、内定もジイさんとの口約束でしかないわけだから・・・。


「いやーその・・・ちょっとトラブルで、カバンを失くしてしまいまして・・・」


 オレは焦りながらこう答えた。そもそもオレの名前はその受付の名簿にのってないのか?あのジイさん内定くれるって言ってたじゃないか。

 いや、ちょっとまて。さっき内定もらったってことはオレは来年入社になるんじゃないか?つまりエリナやリサは今年入社の一つ上の世代、自分は来年入社・・・。つまり今ここで行われてる入社式には参加できないというわけだ。

 うーん、どうしよう引き返すべきか。いや、でもこの中に入らないと、あのジイさんを見つけることはきっと不可能だ。


「あ、じゃあ遅れそうなんで後で確認ということで・・・」


 と、強行突破しようと試みたが、通路の前にいた警備員2人にガッチリと囲まれてしまった。


「ちょっと、警備室のほうに来ていただけますか。」


 警備員二人は、口元はニコニコしているが、目はまったく笑っていない。どうも不審者扱いをされているようだ。まあ、この状況考えるとオレは怪しい人なんだから当然なんだが・・・。

 うーんどうしよう。


「あの・・・メガネありがとうございましたっ!」


 警備員に囲まれながら悩んでいると、リサは大きな声でそう言った。そして軽くお辞儀をして、小走りで通路の奥に消えた。

 ・・・やばい。置いてかれた。

 これはとりあえず謝って出直すのが得策か。警備員に捕まっても何も説明できることがない。


「あ、わかりました。じゃ、出直してきます・・・あ、ちょっと離して!」


 オレはがっちり警備員に肩をホールドされ、別室に連れていかれそうになっていた。

うーん・・・。これはまずい!



「ふぉふぉっふぉー」



 警備員を振り切ってダッシュで逃げるかと考えていると、聞いたことのある笑い声がした。警備員にホールドされながら振り返ってみると、入口にあのジイさんが立っていた。相変わらず、魔法使いのような恰好をしている。この建物の中にいると間違えて入ってきた浮浪者に見える。

 いや、しかし・・・これはラッキーだ!


「あっ!ジイさん!!」

「社長!おはようございます」


 オレがジイさん!と叫ぶのと同時に、受付の女は社長に挨拶した。オレはジイさんに気をとられた警備員の隙をぬって、ジイさんに掴みかかろうとした。

 しかし寸でのところで警備員に再度捕まってしまった。そして今度は羽交い絞めにされる。うーん、優秀な警備員だ。さすが一流企業。

 

「やっほー。偶然じゃのう」


 ジイさんはオレにむかって言った。何が偶然だ・・・!


「ジイさん、ちゃんと説明しろよ!オレはまだ承諾した覚えはないぞ!!」


「えー・・・お主が内定よこせって言ったんじゃん。」


 何が言ったんじゃん、だ・・・。そもそも、こんな世界に転移するなんて話はまったく聞いてない。いや、勤務先は異世界とは言っていたけども。


「まあ、離してやりなさい。」


 ジイさんは警備員に向かって言った。警備員はサッとオレから離れる。本当にこのジイさんはこの会社の社長のようだ。


「あの・・・社長。この方は。」


 受付の女が社長に尋ねる。


「ああ、いいんじゃよ。今年の内定者で間違いない。」


「でも名前が確認できませんが・・・」


「ああ~そうそう。内定辞退者が今年は多くてのー。追加募集やったんじゃよ。彼が名簿に乗っ取らんのはそのせいかのー」


「ああ、そうでしたか。追加募集者の方が漏れてるのですね」


 このジイさんの鶴の一声で、オレはNNTグループの内定者になった。しかしオレが異世界に呼ばれたのは、内定辞退者の数合わせのためだったのか・・・?どうも腑に落ちない。


「ジイさん・・・」


 オレが睨んでいるのを無視して、ジイさんは受付の女に話しかける。


「ちと、彼と話があるから奥の会議室貸してくれんかの。」


「はい、かしこまりました。」

 

 そういうと、ジイさんは左側の通路のほうに入って、オレにむかって手招きした。こんなに早くジイさんに会えたのはラッキーだ。内定辞退して元の世界に戻ってやる!



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