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Fランク大学で悪いか・・

 

 その後しばらくしてから、治安維持部隊と呼ばれる人たちが大勢やってきた。

 

 みな青い作業服のようなものと、野球帽のような帽子をかぶっている。そしてその作業服の背中に、黄色い文字で「治安維持部隊」と書かれているので説明されなくても彼らがそうなのだろうとわかった。


 周りを行き交う人々は、中世ヨーロッパ系RPG風の格好をしているのにこの治安維持部隊と、エリナと名乗った女だけは現代日本にいてもまったくおかしくない恰好をしている。

 何だか彼女らだけ風景から浮いている・・・まあ、オレもリクルートスートを着ているからその一部なのだが。


 エリナは治安維持部隊の人たちに囲まれている。恐らく事情聴取のようなものを受けているのだろう。

 心なしか彼らはエリナに対して腰が低いように見える。エリナは子供を怪物から救ったヒロインだからなのだろうか。



「派手にやってくれたわねー。このバグさん」



 聴取が終わったのだろう。しばらくしてエリナはこちらにやってきた。そして、治安維持部隊が集まっている方向に視線を向けてそう言った。

 エリナの視線の先には・・・あの小さな女の子がいる。

 小さな女の子は、治安部隊が用意した担架のようなものに寝転がっている。

 明るく振舞ってはいるが、エリナもあの女の子のこれからの境遇に心を痛めているのかもしれない。



「3人死亡だってさ。明日のニュースにはなりそうね」


 エリナが呟くように言った。


「3人死亡か・・・。あの女の子、大丈夫かな。」


 エリナはその質問には答えなかった。

 ケガはたいしたことはないだろう。ただ小さな女の子の心には、あの残酷な光景はきつすぎる。

 しかも、もしあの死亡した3人の中に家族がいたとしたら・・・大丈夫、とは決して言えないだろう。

 エリナもそう感じているようだった。



 バグ・・・。それは怪物の名前だろう。それに関して聞きたいことは山ほどある。

 しかし、恐らくこの世界では知ってて当然の言葉のようだ。ストレートに「バグって何ですか?」なんて聞こうものなら、変人扱いされそうな雰囲気がある。


「なあ、バグって・・・、いや、何でバグって呼ばれるようになったんだろうな。」


「さあ・・・知らないわよ。虫に似てるからじゃないの?」


 ・・・聞き方を工夫したつもりだったがロクな情報は聞き出せなかった。


 オレは趣味で少しプログラミングをやっていた。といっても、簡単なスクリプトを書いたりしていた程度だったが。プログラム用語で言う「バグ」は、そのプログラムのエラーのことだ。あの怪物は、この世界のエラーということなのだろうか。



「これからどーすんの?アンタ。」


「どーするって何がだ?」


「入社式でしょ。そんな血がついた服で出るつもり?」


「・・・入社式?」


「NNTの新入社員なんじゃないの?」


 NNT・・・そうだ。オレは恐らくそこの新入社員になったはずだ。


「・・・なんでわかったんだ?」


「なんでって・・。今日ここら辺でそんな服着てる奴なんて、NNTの新入社員だけでしょ」


 なるほど、そうなのか。つまりこいつもオレと同じNNTの新入社員ってことか。これはかなりラッキーだ。こいつについて行けば道にも迷わなくてすむ。それにこの世界の情報が少しわかるかもしれない。


「ああ、その通り!鋭いな」


おれは適当に答えた。


「何が鋭いのよ・・・普通に考えりゃわかるでしょ。で、着替えとか持ってんの?」


「まあ血が目立つのはジャケットだけだから、これを脱いでけば大丈夫だろ」


 確かにジャケットの腕の方に多少の血はついているが、ワイシャツのほうは見る限り何とか無事だった。そもそも着替えなんて持ってない。

 ふと左手を見ると、いつの間にか黒いウネウネ・・・「黒の魔法」の芽は消えていた。



「その恰好で入社式って・・アンタ勇者ね。まあいいけど」


 エリナは呆れたような顔をしていた。


「アンタ、どっから来たの?」


 どこから・・・異世界から、とでも答えればいいのか?


「まあ、遠くから、かな。」


「あっそ、遠くから、ね・・・」


 エリナは何か察したかのように、それ以上は突っ込まなかった。その代わりに、


「で、あんたどこ大学?」


 とエリナは大学名を訪ねてきた。


「おれは国際信州大学・・・」


 不意に大学名を聞かれて、つい普通に答えてしまった。この世界に自分の出身大学があるわけがない。就活スーツを着てる女から大学名を尋ねられるシーンが就活中に何回かあったのが災いした。


「コクサイシンシュウ?何それ聞いたことない。どこのFランなのよ」


 エリナは小馬鹿にしたように言った。

 Fランク大学、通称Fラン。まあつまり最下位ランクの馬鹿でも入れる大学っていうことだ。この世界にもFランという言葉があるのか・・・

 いや、しかし初対面の同期になるであろう人間に向かってそんなこと言うか?普通。まあ、確かに対して偏差値の高い大学ではないけども・・・


「じゃあ、お前はどこ大学なんだよ??」


「あたし・・・?あたしは王都大学・魔法学部・実践魔法科よ」


 聞かれてもいないのに丁寧に学科名までドヤ顔で答えてくれた。

 しかし当然、オレはこの世界の大学のことなんかまったく知らない。


「オレも知らねーぞそんな大学!」


 王都大学・・・名前の響きからすごそうではあるが。

 しかし、知らんもんは知らん!


「はぁぁああああ??王都大学を知らない?さっすがFラン君、冗談うまいわー」


 オレの反応をまったく予想していなかったのか、エリナはデカい声で大げさに驚いて見せ、そして軽蔑した顔でそう言った。

 こいつは可愛くて根はすごくいいやつなんだろう。うん、きっとそうに違いない。小さな女の子を身を挺して助けるようなやつなんだから。


 しかし・・・・・・・・・・むかつく女だ・・・・・


「初めて会った同期がこんなFラン君とはねー。ついてないわー。」


 いやこっちのセリフだ。しかし・・・今はこいつに頼るしかない。

 唯一の手掛かりであるNNTグループにたどり着くためには。



(分割しました)

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