51.クリスマスケーキ
クリスマスっていうと、日本じゃカップルのイベントって感じだよな。
俺は一人、ベッドの上でスマホの画面に真奈美の写真を映し出す。
付き合い始めて初のクリスマスだっていうのに、真奈美になんにもしてやれない申し訳なさが募る。
真奈美も俺に遠慮してか、クリスマスの話はしてこなかった。でも来年は一緒に過ごせるといいな。
そんなことを思いながらスマホの画面を見ていると、看護師の園田さんが入ってきて慌ててスマホを隠す。
ニコニコ顔で入ってきた園田さんは、手に持っていた袋を俺に向かって差し出した。
「メリークリスマース! 颯斗君!」
「あ、それサンタクロースからの!?」
それはさっき守が持っていた袋だった。やっぱりプレゼントを目の前にすると、少し期待してしまう。
「はい、どうぞ!」
「ありがとう!」
ワクワクとしながら開けて……俺はそのまま袋を閉じた。
なんだよふざけんなよマジかよッ
なんで俺のだけ勉強用のプリントがいっぱい入ってんだよ!!
「どうしたの、颯斗君」
「あのサンタクロース、夢を持ってくるどころか悪夢を持ってきやがったー!」
「どれどれ? あはは、勉強道具ばっかりだね」
園田さんは袋を覗いてそう言ったけど、笑い事じゃない。クリスマスプレゼントがプリントとか、貰って喜ぶ奴なんかいないだろ! まぁもしかしたらいるかもしれないけど、俺は勉強は嫌いなんだってのっ。
「まぁ、あのサンタクロースは山長先生だから仕方ないねぇ」
「やまなが? 誰それ」
「誰それって、院内学級の先生でしょ!」
「院内学級……ええ!! 山チョー先生!?」
「そうそう」
うわー、あのサンタクロース、山チョー先生だったんだ。そうとは知らずにはしゃいじゃって、ちょっと恥ずかしいな。
っていうか、山チョー先生って山長って名前だったんだ。なんだ、山チョーのチョーって、長いって字を音読みしただけか。単純だな。
「まさか山チョー先生だったとはなぁ……どっかのじいさんがサンタクロースになってるのかと思った」
「山長先生は年々メイクも上達してるからね。知らない人が見たら、おじいさんに見えちゃうかもね」
「でもだからって、プレゼントにプリントを作るとかしなくてもいいのになぁ」
「颯斗君のことを心配してくれてるんだよ、きっと」
うーん。まぁ確かに俺は、心配されるような成績でしかないけど。
俺はもう一度袋を開いてプリントを見た。手作りのそれは、俺の苦手な部分の強化を図ってくれていることが容易にわかる。
これを山チョー先生は作ってくれたんだもんな……俺のために。
「……勉強、するか……」
「偉い! じゃ、もう一つクリスマスプレゼント!」
「なに? これ以上プリントはいらないよ」
「違う違う、これはボランティアさんから!」
そいう言われて差し出された封筒を開けてみる。
中には手書きのカラフルなイラストと、メリークリスマスの文字が書かれていた。差出人は書かれてない。
これ、わざわざ書いてくれた人がいるんだな。
病院でクリスマスを過ごす子どもたちのために。少しでもクリスマスが明るいものであるようにって。
その手紙を見るとちょっと胸が熱くなって、失くさないようにきっちりと仕舞った。
「颯斗君は今日、ケーキを作れなかったから残念だったね」
唐突の園田さんの言葉に目を丸める。ケーキを、しかも作るとか。無理だろ。
「誰か、ケーキ作ったのか?」
「うん、マモちゃんとユウ君も作ってたよ」
「え!? どうやって??」
「志保美先生と沙知先生がスポンジと生クリームを持ってきてね。スプーンで生クリームを塗って、上にはアンジェリカやドレンチェリーを乗せてたよ」
うわあ、そんなことやったんだ。いいなぁ俺もちょっとやりたかった。まぁ保育士さんは部屋に入れないから無理だったんだろうけど。そもそもケーキを作っても、俺は食べられないし……ってあれ?
「その作ったケーキはだれが食べたんだ? 守はともかく、裕介はもう生禁だろ?」
生物禁止の時には生クリームはダメだ。裕介も年明けに臍帯血移植を控えてるから、もう生物は食べられないはずだ。
「食べられない子は、親が食べるんだよ。まぁ作らせておいて食べさせないとか、ちょっとかわいそうだけどね」
ああ、裕介はせっかくケーキを飾り付けしたのに、自分で食べられなかったんだなってことがわかった。子どもの作ったものを取り上げて食べなきゃいけない木下さんもかわいそうだ。
言っちゃ悪いけど、裕介は守ほど聞き分けがよくないもんな。ケーキを取り上げられて、泣きそうになってる裕介をすぐに想像することができる。まぁ、仕方ないんだけど。
俺たちはちょっと特殊だから食べられないけど、他の入院してる子どもたちは喜んだだろうな。
俺も来年は生クリームたっぷりのケーキを食べよう。
もちろん、家族や真奈美と一緒に……な。




