25.思いっきり、蹴れ!!
院内学級を終えて戻ってくると、俺の病室の前にリハビリテーション科の塚狭先生が立っていた。
俺がそろそろ院内学級から戻ってくると踏んで、待ってくれてたんだろう。俺は軽く挨拶を済ませた後、病室に教科書を置いてから廊下へと出る。
「颯斗くん、今日はサッカーしようか」
「サッカー? え、清潔室で?」
「うん、颯斗くんのビーチボール貸してくれる? あれで擬似サッカーしよう。点滴には気を付けてね」
なんだ、擬似サッカーか。さすがに本物は無理だよな。
塚狭先生は俺の病室からサッカー柄のビーチボールを出してきて、こっちに転がしてくれた。俺は邪魔にならないように手に点滴の管を持ったまま、ビーチボール蹴り返した。ボールはポーンと弧を描いて塚狭先生の足元に落ちる。
子どもがやるようなお遊びのサッカーだけど、それでも久々にボールを蹴ったな。やっぱり、楽しい。
塚狭先生は、徐々に距離を取るように遠くにいっている。その度に調節をして、塚狭先生のところへワンバウンドで届くように蹴った。
「いいねいいね、ちょっと思いっきり蹴ってみて」
「俺が思いっきり蹴ったら、こんなボールすぐ割れちゃうって」
「本当に? さすがサッカー部だなぁ。じゃあまぁ、割れない程度に強く蹴って」
「え、いいのか? 」
「いいよ。どのくらい足の力が回復したかも見たいしね」
そう言われて俺はニッと笑った。そりゃあまだ元の脚力ってわけにはいかないけど、真面目にリハビリを取り組んできたからかなり回復している。ようし、塚狭先生をビックリさせてやろう!
「先生、避けといて。当たったらいくらビーチボールでも痛いよ」
「そこまで? 怖いなぁ」
塚狭先生はさっとその場から移動し、横の壁際に立ってこっちを見ている。
俺は点滴ポールの位置を動かし、少しだけ助走出来るように点滴の長さを変えた後、ボールをセットして五歩下がった。
「颯斗くん、割れない程度に、だからね!」
「わかってるって!」
そうして俺はほんの少し助走をつけてステップを踏むように。
「フッ!!」
直後、バァァアンッ!! というものすごい音がした。
し、しまった……破裂したか!?
「ちょ、な、なにぃ?!」
隣の病室や向かいの病室からみんなが出てきてしまった。
俺の蹴ったボールは清潔室の透明な扉にぶち当たり、ポンポンと転がっている。どうやら割れてはないようだ。良かっ……
「なにやってるの!?」
……良くなかった。園田さんが青い顔をして飛んできて、清潔室の扉を開けて入ってくる。
「颯斗くん!?」
「えっ、俺だけど俺じゃな……」
「す、すみません、僕が颯斗くんに思いっきり蹴ってみろって言っちゃって。まさかここまでとはな〜」
塚狭先生は頭を掻きながら申し訳なさそうに苦笑いしている。
「塚狭先生、ここは病院なんですから、あんまり大きな音を立てるようなことはやめてくださいね? みんなびっくりしちゃいます」
「はい、すみません……」
同年代くらいの看護師に怒られた塚狭先生は、バツが悪そうに肩を竦めていた。
いや、うん……俺もつい、いいとこ見せようと強く蹴りすぎたかな。反省。
「ハヤトおにいちゃん、サッカーやってたの? ぼくもやりたーい!」
「ユウくんもやるーっ」
「リナもやりたーい!」
騒ぎを聞きつけて出てきた守と祐介とリナが、それぞれに点滴ポールを持って病室から出てきた。
「それじゃあみんなでやろうか! 二チームにわかれてサッカーだ!」
塚狭先生の提案で、守とリナ、俺と祐介のチームにわかれて廊下でビーチボールを蹴り合う。
もちろんチビ達相手だから強くは蹴れないし、サッカーなんて言えるもんじゃなかったけど。
「きゃーっ! 変なとこ行っちゃったー!」
「ユウくんも! ユウくんも蹴るーっ」
「よし、じゃあ祐介、思いっきり蹴れっ!」
「えいっ」
「次ぼく蹴る!!」
「マモちゃんいけーっ!」
「ナイスキック、守!!」
祐介がコロコロと転がすように蹴ったボールを、守が勢いよく蹴り飛ばした。祐介の顔に当たりそうになったボールを足で弾き、そのままリナの方へとボールを送ってやる。
「リナちゃんファイトー!」
「さすがハヤトくん、上手ねぇ」
「ユウくん、ボールをよく見て蹴ってー!」
サポーターという名のみんなの母親も、スマホを構えて動画やら写真やら撮りながら応援してくれている。
やっぱりこうやってみんなでワイワイボールを蹴るのは楽しいよな。
「祐介、もうちょい手前までボールを持ってこい。そうだ、それでこうやって足の内側の方で思いっきり蹴る!」
バン、といい音がして、祐介の放ったボールが宙を舞った。
サポーターの声が、一段と大きくなった瞬間だった。




