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再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜  作者: 長岡更紗


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25/92

25.思いっきり、蹴れ!!

 院内学級を終えて戻ってくると、俺の病室の前にリハビリテーション科の塚狭つかさ先生が立っていた。

 俺がそろそろ院内学級から戻ってくると踏んで、待ってくれてたんだろう。俺は軽く挨拶を済ませた後、病室に教科書を置いてから廊下へと出る。


「颯斗くん、今日はサッカーしようか」

「サッカー? え、清潔室(ここ)で?」

「うん、颯斗くんのビーチボール貸してくれる? あれで擬似サッカーしよう。点滴には気を付けてね」


 なんだ、擬似サッカーか。さすがに本物は無理だよな。

 塚狭先生は俺の病室からサッカー柄のビーチボールを出してきて、こっちに転がしてくれた。俺は邪魔にならないように手に点滴の管を持ったまま、ビーチボール蹴り返した。ボールはポーンと弧を描いて塚狭先生の足元に落ちる。

 子どもがやるようなお遊びのサッカーだけど、それでも久々にボールを蹴ったな。やっぱり、楽しい。

 塚狭先生は、徐々に距離を取るように遠くにいっている。その度に調節をして、塚狭先生のところへワンバウンドで届くように蹴った。


「いいねいいね、ちょっと思いっきり蹴ってみて」

「俺が思いっきり蹴ったら、こんなボールすぐ割れちゃうって」

「本当に? さすがサッカー部だなぁ。じゃあまぁ、割れない程度に強く蹴って」

「え、いいのか? 」

「いいよ。どのくらい足の力が回復したかも見たいしね」


 そう言われて俺はニッと笑った。そりゃあまだ元の脚力ってわけにはいかないけど、真面目にリハビリを取り組んできたからかなり回復している。ようし、塚狭先生をビックリさせてやろう!


「先生、避けといて。当たったらいくらビーチボールでも痛いよ」

「そこまで? 怖いなぁ」


 塚狭先生はさっとその場から移動し、横の壁際に立ってこっちを見ている。

 俺は点滴ポールの位置を動かし、少しだけ助走出来るように点滴の長さを変えた後、ボールをセットして五歩下がった。


「颯斗くん、割れない程度に、だからね!」

「わかってるって!」


 そうして俺はほんの少し助走をつけてステップを踏むように。


「フッ!!」


 直後、バァァアンッ!! というものすごい音がした。

 し、しまった……破裂したか!?


「ちょ、な、なにぃ?!」


 隣の病室や向かいの病室からみんなが出てきてしまった。

 俺の蹴ったボールは清潔室の透明な扉にぶち当たり、ポンポンと転がっている。どうやら割れてはないようだ。良かっ……


「なにやってるの!?」


 ……良くなかった。園田さんが青い顔をして飛んできて、清潔室の扉を開けて入ってくる。


「颯斗くん!?」

「えっ、俺だけど俺じゃな……」

「す、すみません、僕が颯斗くんに思いっきり蹴ってみろって言っちゃって。まさかここまでとはな〜」


 塚狭先生は頭を掻きながら申し訳なさそうに苦笑いしている。


「塚狭先生、ここは病院なんですから、あんまり大きな音を立てるようなことはやめてくださいね? みんなびっくりしちゃいます」

「はい、すみません……」


 同年代くらいの看護師に怒られた塚狭先生は、バツが悪そうに肩を竦めていた。

 いや、うん……俺もつい、いいとこ見せようと強く蹴りすぎたかな。反省。


「ハヤトおにいちゃん、サッカーやってたの? ぼくもやりたーい!」

「ユウくんもやるーっ」

「リナもやりたーい!」


 騒ぎを聞きつけて出てきた守と祐介とリナが、それぞれに点滴ポールを持って病室から出てきた。


「それじゃあみんなでやろうか! 二チームにわかれてサッカーだ!」


 塚狭先生の提案で、守とリナ、俺と祐介のチームにわかれて廊下でビーチボールを蹴り合う。

 もちろんチビ達相手だから強くは蹴れないし、サッカーなんて言えるもんじゃなかったけど。


「きゃーっ! 変なとこ行っちゃったー!」

「ユウくんも! ユウくんも蹴るーっ」

「よし、じゃあ祐介、思いっきり蹴れっ!」

「えいっ」

「次ぼく蹴る!!」

「マモちゃんいけーっ!」

「ナイスキック、守!!」


 祐介がコロコロと転がすように蹴ったボールを、守が勢いよく蹴り飛ばした。祐介の顔に当たりそうになったボールを足で弾き、そのままリナの方へとボールを送ってやる。


「リナちゃんファイトー!」

「さすがハヤトくん、上手ねぇ」

「ユウくん、ボールをよく見て蹴ってー!」


 サポーターという名のみんなの母親も、スマホを構えて動画やら写真やら撮りながら応援してくれている。

 やっぱりこうやってみんなでワイワイボールを蹴るのは楽しいよな。


「祐介、もうちょい手前までボールを持ってこい。そうだ、それでこうやって足の内側の方で思いっきり蹴る!」


 バン、といい音がして、祐介の放ったボールが宙を舞った。

 サポーターの声が、一段と大きくなった瞬間だった。


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