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01.青春真っ只中に

「いっけぇええーーーーーーッ!!」


 フィールドから声が上がる。

 俺はそれに応えるようにゴールに向けてシュートを蹴り放った。

 白と黒のボールは灰に色を変えてゴールキーパーを越え、ネットを激しく揺らす。


「よっしゃーーーーーーッ!!」

「よくやった、颯斗(はやと)ーーーーッ」


 後半ラスト五分、ようやく入った先制点だ。

 仲間が駆け寄ってきて、飛ぶように俺に抱きついてくる。


「さっすが颯斗!! お前のポジショニング最高ッ!! 」

「智樹のアシストがあったからだって! ありがとなっ!!」


 俺と智樹は喜びを全面に表す仲間たちに、グッシャグシャにされた。


 結局この試合は、俺のゴールが決め手となって地区大会に優勝した。

 田舎だから出場校は少ないが、やっぱり優勝というのは嬉しい。

 中学二年でもぎ取ったレギュラーの座。今までの努力が実った結果だ。次に目指すは、もちろん県大会優勝! だな!!

 十三年間生きてきて、今が一番充実してるって心から言える。



「颯斗、今日一緒に帰ろ?」


 そう言って声をかけてきたのは結城真奈美。同じクラスで俺のできたばかりの彼女だ。

 中一の頃から互いに呼び捨てし合うほど仲が良くて、地区大会が始まる前に告白された。俺も実はずっと真奈美のことが好きだったから、もちろん二つ返事でオーケーしたんだ。


「いいけど、練習で遅くなるぞ」

「私も部活あるし、待ってる」


 彼女は合唱部に所属している。合唱部は文化部ってイメージがあるけど、うちの中学の合唱部は走り込みや腹筋もやってたりする本格派だ。

 結構遅くまで練習しているので、待つ時間は少ないらしい。


 俺は部活を終えると、玄関にいる真奈美の所へ向かった。もうとっくの昔に校舎は締められていて、辺りは暗くなっている。


「お疲れ、颯斗!」

「ふぁー、足痛ぇー」

「どうしたの、怪我?」

「いや、大丈夫」


 疲れが出たのか、足に微妙な違和感を感じたけど、この時は特に気にしなかった。


「今度合唱コンクールで歌う曲決まったよ」

「へぇ、なんて曲?」

「大地讃頌」

「知らね」

「えっとね、大地を讃頌する歌」

「まんまじゃんかっ」


 クスクスと笑う真奈美。可愛いなぁ。

 思わず周りに俺の彼女なんだぜ、と自慢したくなる。


「コンクールの時、聞きに来てくれる?」

「サッカーの練習がなかったらな」


 素っ気なく言うと、真奈美は「も〜」と俺の背中を叩いたのだった。




 その日の夜中のことだ。俺は右足の強烈な痛みで目を覚ました。


「う……ぐぐっ!! いってぇ、痛ええっ!!」


 俺の叫び声は部屋を飛び越え、両親の所まで届いたらしい。母さんが慌てて扉を開けて入ってくる。


「どうしたの、颯斗!?」

「痛……っ、足、痛……っ!! ううっ!!」

「どこ!? ここ??」

「触んなぁぁあああ!!」


 俺は母親を突き飛ばし、涙目で足を抱える。

 なんだこの痛みは。別に今日は強い接触があったわけでもない。ついさっきまで普通に動いていたのに。よりによって利き足である右が、めちゃくちゃ痛む。


「きゅ、救急車、呼ぼうか? 折れてるのかも……っ」


 俺はコクコクと頷いた。俺の夢はプロのサッカー選手になることだ。こんなわけのわからない痛みを放っておくわけにはいかない。

 救急車は驚くほど早く到着し、俺は担架に乗せられて救急車に入った。けれども病院に向かう途中、なぜだか痛みが引いていく。さっきまで痛がっていた俺がケロッとしているのを見て、救急隊員のお兄さんが少し首を傾げた。


「大丈夫かな、颯斗君。痛みは?」

「えーと……ごめんなさい、治りました……」

「ええ? なに言ってるの、あなたは……」


 救急車に同乗していた母親が、嬉しいんだか嬉しくないんだかで顔を歪ませた。

 そんな風に言われたって、治ったもんは仕方ないじゃないか。

 けど病院はもうすぐそこだったのもあって、結局俺は診てもらうことになった。痛かった箇所のレントゲンを撮ってもらったがまったく異常はなく、サッカーをしていることを告げると成長痛かつかいたみ(・・・・・)だろうと言われて湿布を出されただけだった。


 けれどその激痛は翌日の夜も訪れた。昼は普通に歩けて部活もできたっていうのに、なんなんだこの痛みは。

 成長痛? つかいたみ? ふざけんな、そんな痛さじゃないぞっ!!


「母さんっ!! 母さんっ!! 痛いっ」

「どうしたの、また?!」


 母さんは救急車を呼ぼうか迷って、でも少し様子を見ることにしたらしい。昨日のこともあるから当然だろう。すると一時間が過ぎて、ようやく痛みが治まってきた。


「ごめん、母さん。もう大丈夫」

「……明日、 もう一度病院行ってこよう、颯斗」


 そう言って迎えた朝。俺は妙な痣に気付いた。昨日までなかったはずの痣。熱も少しの間出たけどすぐ治った。

 整形外科に行くべきかと悩んでいたけど、母さんが連れていってくれたのはかかりつけの内科だった。足の痛みと今朝の熱の話を聞いた眼鏡のじいちゃん先生は、血液検査をしてくれた。


「血液のデータが異常です。今すぐ紹介状を書くから、総合病院に行きなさい。入院になるよ」


 唐突の言葉に俺は目を丸める。はあ? だ。なに言ってんだ、このじいちゃん先生。

 けど、俺がそんなことを考えているうちに、バタバタと本当に総合病院への入院が決まってしまった。

 総合病院では色んな検査がされた。きっとどこかが炎症しているだけだから、抗生剤の投与で回復して数値が治ったら退院できるだろうと言われていたのだが、予想に反して異常だった白血球の数値は戻らなかったからだ。

 レントゲンは勿論、CTやMRI、血液検査も何回もやらされた。でも原因が特定できない。

 一週間も入院してイライラとしていた時、小児科の先生がいきなりこんなことを言い出したんだ。


「明日、医大の方に行ってください。ここでは調べられない病気の可能性が高いです」

「あ、明日?!」


 俺も母さんも声を上げて驚いた。

 医大は遠い。車で三時間は掛かる。


「先生、息子の病気ってなんなんですか?!」

「今はまだなんとも言えません。それを調べに行ってもらうので……長期の入院の用意だけして、明日向かって下さい。早い方がいいです」


 母さんはそう言われた後、色んな所に電話を掛け、転院の準備をするために帰っていった。

 なにが、どうなってんの?

 俺は呆然とするばかりだ。


 翌朝、俺は主治医の先生に「頑張ってきてね」と手をギュッと握られて、送り出された。

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