予想以上にハードモード
「お、いたいた。おーい」
岩に腰をかけて一息ついていたところに、声をかけられた。声に気がつき顔を向けると、先ほどメッセージを飛ばしてきた陽介、ダイダロスが走って向かってきていた。軽く手を振り挨拶する。
「よー、遅かったな」
「いろいろ街中でぶんぶんしてた」
とりあえず何かしら行動を起こす、何ができるかを試してみるのはゲーマーの習性だ。慣れていない人間に比べ、ゲーマーは行動を起こすのがやたら早い。
民家に勝手に侵入し、荒らしていく人物でさえ勇者と呼ばれる存在になれるのだから、多少の無礼は問題ない。あくまでゲームの中では、ここ大事。
正樹も開始地点の広場で物を叩いたりしていた。同類である。
「で、陽介……いやダイダロス。早速聞きたいんだが、今STRはどの位ある?」
「おう、ちょっと待ってな」
STR、数ある能力値の中で力を表す数値で、敵に与えるダメージや、積載量に影響する冒険に必要な能力値である。陽介は現実で運動センス抜群なため、ゲームでそのボーナスを受け取っているはずだった。
「レベル1で初期ポイント10を全部STRに振って15、リアルボーナスが72だなー」
「はっ?」
その言葉に正樹は耳を疑った。
……ななじゅう?合計で87?これは何の冗談だ?
「で、お前は?」
言うのが躊躇われる。しかし、言わない理由もない。
「STR多めのバランス振りしたから、基本9のボーナス8の17……」
さっき陽介を待っている間にレベル上がり、その時貰えたポイントは1だった。つまり、STRだけでも60レベル分の差が出てるってことであり、この1レベル脳筋のパワーに追いつくには、ゲームレベルを60も上げないといけないことになる。
「運動もしないんだっけ?俺は火力特化だし、極端すぎてどっちが異常かわからんな?」
「おう。見よ、この日焼けのない美白」
「いや、リアルで青白いのは知ってるけど、今はゲーム内だからな?」
他人には伝わらんよ?
今の正樹はライブラという自身によって生み出されたゲームキャラの姿である。標準的な褐色の肌に、リアルでは見ることはまずない鮮やかな緑の髪。衣服はゲーム初期によく見られる飾り気のない布質の服だ。ダイダロスも着ている服は全く同じだが、肌は浅黒く黒髪で全体的に色が濃い。そして修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の戦士のように、全身を古傷が彩る。
同じ新米冒険者なのにである。何箇所かは子供の頃猫にひっかかれた傷とかに違いない。
「おお、なんだか風船みたいなのが飛んでるぞ、待て待てー」
ダイダロスは先ほどライブラが倒した敵、風船虫を見つけると、即座に嬉々として走っていった。そのキラキラした様子はまるで新しいおもちゃを見つけた子供だ。
「そいつ結構体力あるぞー」
自分の体験から注意してみるも、風船虫に向かっていくダイダロスには聞こえていないようだ。ライブラの数倍の力があるはずだから余計なお世話かもしれない。
「そいやー!」
バシッ!
ビユユウウゥゥー
素早い動きから繰り出された一撃で、風船虫はそれだけでしぼんでいく。
「うはは、風船割りおもしれー!なんか言ったかー?」
「ん、なんでもないぞー」
当然と言えば当然の結果か。流石脳筋、火力が段違いだ。
お試しでの戦闘とダイダロスを待っている間に、狩場に徐々に人が増え、同じように風船虫にちょっかいを出していた。サービスが始まってからほんの数時間、キャラメイクし、ここに辿り着いたプレイヤーはゲーマー認定できるだろう。動きも何処となく慣れた感じがある。
その様子を見てみると、わずか数発で風船虫を墜落させているのが見て取れた。
(あれ……?)
時間を要しているプレイヤーは全くいない。
バンバン風船をしぼませていく陽介とサクサク倒していく他のプレイヤー、正樹は自分の両手を無表情に見つめていた。
「……俺、もしかしてめっちゃ弱い?」