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旅立つ前に

真っ白だった世界が色味を帯びていくと、次に眼前に広がったのは目が醒めるほど鮮やかな青色だった。視界の右から左に流れていく白い物体が雲であることが分かった。どうやら仰向けになっているようだ。

「ゲーム開始だな」

軽い口調で立ち上がる。指を開いたり閉じたり、身体をねじってみたりと動かしてみる。思考に遅れることなく、その身体は動いてくれる。

「こいつはすごいぞ、まるで本物の自分の身体だ」

急制動を繰り返してみてもしっかり反応する。現実の身体よりも優秀なのは確実だ。

動作反応もそうだが、ゲーム上の物体の作り込みも見事なものだった。

石材一つとっても、陽に照らされたものは暖かく陰のものはひんやり、砂を固めたざらりとしたものや岩を削り出したつるっとした感触の違いまで再現されている。

バーチャルでよくある、現実だとこうだよなと思う違和感が今のところ全くない。

頬を撫でていく風をもしっかり感じる。今は穏やかなものだが、前に進めないほどの強風なんて状態もあるかもしれない。

自分の身体を触ったり、地面を踏みしめてみたり、石を投げてみたり、道端の草を抜いてみたり、柵を叩いてみたり、全て現実と差異のない感触が返ってくる。

側から見れば不審者とも思える行動なのだが、周りには大体同じ事を行い、感嘆の声をあげている人物がたくさんいるので全然問題はない。

「ふう、国の本気を甘く見ていたな」

いち早く感動の衝撃から抜け出すと、正樹はウィンドウを開き、自身のステイタスを確認する。そのステイタスもキャラメイクと同じように細かに細分化され、一つ一つわかりやすい説明が記載されている。

肝心の数値はもちろん低い。開始直後ということもあるが、それに加えリアルボーナスが限りなく低いからだ。先日行われた体力測定と全国試験がズタボロだったのが原因だ。

過ぎたことはもうどうしようもない。能力値は行動力で補っていかねばならない。

広場は生まれたばかりのプレイヤー達で賑わっていた。そんな彼らを尻目に、正樹は情報を収集する為に駆け出した。

「しかし、でかいなこの街」

街の中で迷子になりそうだ。闇雲に走り回っても時間の浪費になる可能性が高い。それならばと、この街の住人に声をかけた。始めの街である、きっと用意されている台詞は『武器屋はどこどこにあるぞ』とか、『疲れたらどこどこの宿屋で休むんだぞ』とか、丁寧に教えてくれるに違いない。

「おーい」

「よう」

続く会話を待つ。話しかければ、決められたセリフを返してくれるはずだ。しかし。

「……」

二人の間に沈黙が流れる。おかしい、街の人は確かにこちらを見て反応しているのに、次に続くであろうセリフが一向にこない。会話の仕方が間違っているのか?しかし、呼びかけには反応していた。

はてと、首をかしげた。

「おかしいな?」

「おかしいとは失礼だな……何の用なんだよ?」

「ホワッツ!?」

街の住人はやや気分を害したようで、口調を尖らせた。

これはあらかじめ決められた台詞ではない。明らかにこちらの言葉の意味を理解して返してきている。

「なんでもないなら行くぞ」

えっと、どうしよう……

バーチャルなのにタラタラと冷や汗が出る錯覚が巻き起こる。余りに反応が人間じみていて逆に怖い。このゲームの住人は全てこんなに自然に会話するのだろうか。

「あっと、ええと、ちょっとお聞きしたいことが……」

「おう、何だ?俺も仕事があるから手短にな」

「ここは、どこですか?」

(いやおかしいだろ、ここはどこ?私はだーれ?ってか!)

即頭の中で突っ込みが入る。しかし発言の取り消しなんてコマンドはないし、逃げ出したらよりまずい。

覚悟して相手の反応を見るしかない。

「ここ?ここはセンヨウの街の西通りだな」

ごく自然に教えてくれた。怪しい人扱いはこれっぽっちもされていない。

「お前、新米冒険者か。この街は冒険者頼りなんだから頑張ってくれよ!」

街の住人はそう付け加えて言うと、正樹を置いて仕事に行ってしまった。まだ聞きたいことがあったのだが、動転した頭では呼び止める気力が生まれなかった。

「あれが特殊なNPCだったんだ、ははは、きっとそうだ」

そうに違いないと自分を奮い立たせ、もう一度通りすがりの別の住人に声をかけた。

「どうしたの?」

「……」

先程と同様、街の人はこちらの質問を待っている。

(さっきのもそうだったけど、キーワードに反応するタイプか?にしたって会話の幅が広すぎるだろう)

目眩を強引に制し、正樹は会話を続けた。

「街の外にはどこから出られますか?」

「広場は分かるわね?そこから南の方にずっといくと門から出られるわよ。この街、慣れないと広くて分からなくなっちゃうわよね」

「ありがとうございます……あともう一つ聞いていいですか?」

キーワード反応なら、絶対に聞かれないような質問をされれば、機械的な反応が返ってくるはずだ。

「なに?」

「お姉さんのスリーサイズ教えてください」

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