国営ゲーム、放送を終えて
廊下を歩く二人の人物。髪型から足先まで、文句のつけようもない完璧な壮年紳士と、ネクタイを緩めスーツを肩にかけて歩く、仕事終わりに一杯やったようなだらしない姿の男。そんな対照的な二人が歩くのは、立派な絨毯が敷かれ、所々に見るからに高そうな置物が等間隔に配置された長い廊下だった。
歩きながら壮年紳士が口を開く。
「飛鳥くん、本当にこれで状況は打開され、学生は勉学に励むのか?」
全国の子供に向けた放送という一仕事を終えただらしない人物、飛鳥は答える。
「どうでしょう、可能性は高いとは思いますよ。賞金で釣るって言い方は悪く聞こえますが、大体の人間は対価を考えて動きます。物が手に入る、金が手に入る、知識が、コネが、地位が。学生だってバイト代が出ないバイトなんてやりませんし、我々だって見合った対価が手に入らなければ、こんなクソ面倒な政治家なんてやりません」
上からも下から無茶苦茶に文句言われて、何か発言するとそれに対してもああだこうだ。国の為ではなく自分の立場の為に発言する同業者。ノイローゼになりそうな野次を受け続けたこともある。飛鳥はそんな過去の体験を思い出し自嘲気味に笑う。それでも辞めずに続けるのは、それに見合った様々な対価があるからだ。
「しかし、ゲーマーとはなかなかどうして。心の中では自己満足と、いつかはサービスが終わってしまうと分かっていても、それでもゲームに熱意、資金、時間を注ぎます。注ぐことができる」
話題作りのツールとして使っている奴ももちろんいますがね、と付け加えた。
そういった現実の為にゲームを利用できているリア充ゲーマーは問題ない。今回の目的は、ゲームを活かせずに埋もれてしまった者、廃人ゲーマーなどの救済だからだ。
「今まで無償で無駄な事をやれていた彼らに、今回ゲームで確かな対価を払うことを我々が約束したわけです。しかも以前とは比べ物にならないほどのハイクオリティゲームで、です。魅力があるほどゲームは長続きし、プレイヤーも増える。プレイヤーが多いほどゲーム上の地位は意味を増す。そしてその地位を得るためにはそのゲームで強くなるしかない。で、我々は新たに、ゲームで強くなるには現実の成績が必要という要素を加えた」
「古い人間には全く別の世界の話だな……今のゲームには古い常識が全く通用しないのだな」
「ええ。ファミリーコンピューターの土管工や蟹歩き勇者ゲームから随分進化しましたから」
かつて、自分の投げた物体の勢いで死んだり毒キノコで巨大化するゲームや、死んでも死んでも強制的に戦わせられるゾンビアタックゲームが存在した。今のゲームは現実と見間違うほどの美麗な映像となっている。
「そしてゲーマーは、強くなるためならどんなに過酷な試練でも乗り越えます」
時として彼らはゲームにおいて、製作陣の無理難題を涼しい顔でクリアしてみせる。
明らかに破壊不可の耐久値に設定された障害物を、超火力プレイヤーが協力を募って、無駄に威力を披露して粉砕していく。
グループ攻略推奨のイベントを、猛者が単独でクリアする。
これがゲームの限界値ですという、攻略させる気がさらさらなさそうなものですら、培った知識と経験をフル活用して突破口を切り開くのだ。
まさに不可能を可能にする存在、ゲーマー。飛鳥も以前廃人と呼ばれていた人種、だからこそ分かる。
「一種の超人ですよ、奴らは」