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2016年/短編まとめ

生理的現象と恋愛感情について

作者: 文崎 美生

休みの前日にはレンタルビデオ店に行き、休みになるとほぼ丸一日テレビ画面を見続ける彼女を眺めるのが、決まりになりつつある。

基本的に彼女も俺もインドア系で、部屋に引きこもってはDVDを見たり、本を読んだりしてのんびりと過ごす。


マグカップ片手にソファーに座りながら、画面に釘付け状態の彼女を見つめる俺。

正直に言ってDVDの内容は一割も頭に入って来ていない。

取り敢えず結構古いやつだった気がする。


温くなり始めたコーヒーを飲み、テーブルの上に置いてあるもう一つのマグカップを覗く。

すっかり中身の冷めたそれは、一口も手がつけられていないようで、本当に夢中なんだと分かる。


瞬きも忘れたみたいに、お気に入りのクッションを抱き締めて、体を前のめりにテレビ画面を見つめる彼女は、唇を引き結んでいた。

あー、緊迫してる場面かなぁ、なんて思いながら画面を見れば銃声。


大袈裟なくらい揺れる細い肩。

次の瞬間には黒い目から、ぼたぼたと涙を落とす。

完全に感情移入している証拠だ。

あーあ、と温くなったコーヒーを喉の奥へと流し込めば、ひっくひくえぐえぐ、嗚咽が聞こえる。


「そんなに泣くほど?」


「うっ、ひっ、だっで……きゃさ、りんがぁぁ」


鼻水まで出て来そうな勢いで泣く彼女は、どこか幼い。

それが泣き顔なのか、精神年齢なのかは考えないようにしておくが。

ぼたぼた、溢れる涙を拭かせるために、テーブルの上に置いてあった箱ティッシュを箱ごと渡す。


DVDを見る時に出す箱ティッシュは、肌を傷めないようにローションティッシュにしてあるが、それで惜しげもなく鼻をかむ。

そんなに勢い良くかんで大丈夫か。


鼻をかみながらも、視線はテレビに向かっていて、鼻水は良くなるものの、目から流れる涙は止まることを知らない。

毎度毎度そんなに泣いて、よく体の水分がなくならないものだと思う。


「きゃさりん、かわい、そ……」


しゃっくりが止まらないままにそう言う彼女は、目も頬も鼻も真っ赤になっている。

長いまつ毛には涙が付いて、瞬きの度に水滴を飛ばしていた。

泣いてる彼女が可愛過ぎて辛い。


たかだか作り物の映画一本、開始から一時間も経っていないのにぼろぼろ泣き出す彼女を、可愛い以外でどう表現すればいいんだろうか。

こう変な気分になるのは、可愛いからだろう。


鼻をかみ終わった丸められたティッシュと、箱ティッシュを押し付けられた俺は、箱ティッシュをテーブルの上に置いて、丸められたティッシュはゴミ箱へ。

立ち上がったついでに「トイレ行ってくるわ」と言えば、全く気のない返事が返ってくる。


猫背気味にトイレに引きこもる俺としては、良くも悪くもこちらを気にしていない彼女に安心だ。

こうなる原因は彼女にもあるから、全体的に彼女のせいだけれど。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何かに夢中になっている人(特に異性)を見ていたい気持ち、よく解ります。 好きな相手でなければ、出来ないことですけどね。 好きだからこそ、そうしていたいと思うんですよね。 この二人のこうい…
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