小さな殺戮者8
「あ"ぁ"ん"!? ぁんだとゴラァ!」
ブチブチとキレながら挑発に乗りまくっている夏那美の弱点は、スタミナの無さだったりする。これまでのEsが彼女の攻撃力に耐えきれずにほぼ一撃で浄化してしまっていたため、彼女は鍛える事を知らないのだ。
だがしかし……万一夏那美の攻撃が麻衣に直撃したら、その時点で勝負はついてしまうだろう。
「アンタこそ顔面真っ青じゃん! 人の事言えんのかよ!」
そこで夏那美はハッと気が付いた。
麻衣の右目に違和感。今、たしかに瞳の内側に波紋が広がってる。あれは一体……? 青い光を放ってるみたいだけど……。
「我慢してけろ」
頬にキスするかのように耳元で優しく囁かれてはいるが、思考中に一瞬に詰め寄られた夏那美の腹部に、麻衣の三節棍が深々とめり込む。
「かはっ」
大きく目を見開き、口から胃液を吐き出してる最中に槍を奪われて、麻衣の気合いの入った声とともに、はるか彼方へ投げ飛ばされてしまった。
『ばかっ! そっちは!』
「……ぁ。投げる方角間違ったべさ」
軌跡を描きながら、槍は音速で都心部に向かっていた。それを取り戻すかのように、彼女たちは猛烈なスピードで追いかけるのだった。
* * * * * *
――日霊保、司令室――
「それにしても……当たり前のように避けましたね、麻衣は」
「ん? あぁ、そりゃあな。ちょっとミュートにしてくれ」
「え? あ、はい」
わけも分からず指示に従う水谷は、発信音量をゼロにして再び恭平の目を見る。
「どういう事なんです? 西嶋さん、さも当然のように言いませんでした?」
「ふふ。まさか、麻衣信者の水谷でも知らないなんてな」
「もったいぶらずに教えて下さいよ」
「それはな――」
「驚異的な非被弾率にあるんだよ」
恭平のように両手の指で目を吊り上げさせ、口真似をしながら百合が口を挟んだ。