立ちはだかる者。15
そうだ。この顔、新任になったっていう教師。間違いない。あいつ、そんなに強いの?
夏那美は深刻な顔をして耳を疑った。彼女的にそれほど強そうには見えなかったのだろう。
『先輩たちにVSでたくさん負けて、精神を鍛えなさい。そうすればあなたは、誰にも負けない強い人になれる』
「嫌よ、負けるのは」
『ふふっ。そう言うと思ってた。夏那美って誰かに似て頑固だもんね。だけど、いつかきっと気付く時がくるはず。負けて負けて、そして強くなったら……全国制覇を狙いなさい。夏那美なら、きっとできる。私とパパの血が流れてるんだもん。私が見た景色、あなたにも見せてあげたいの』
「……うん」
『ほんの少しの間だったけど、声聞けてよかった? 迷惑じゃなかったらいいんだけど』
「えっ? もうママの声聞けないの!? やだよ! もっと聞いてたいよっ!」
自然に溢れてくる物に彼女が気付いたのは、写真の保護フィルムに落ちた時だった。
たしかに、小学生の頃にこんな事言われてたら迷惑だったかもしれない。ママがそばにいた時は、すっごく仲が悪かったから。パパの事を聞いても、はぐらかされたから。
ママが死んだ時、正直『ざまぁ』とか思ってた。だけどすべては私が傷付かないようにっていう気遣いだと後から知って……それから私はママへの罪悪感でいっぱいだった。
嗚咽を必死に押し殺し、夏那美は涙を拭う事も忘れて写真を見つめている。
VS……! 今まで興味なかったけど、俄然やる気が出てきたわ。
「レ、レジェンドって、黄志さんにそっくりなんですね。もしかして、お母さんだったりするんですか?」
ハッと夏那美が気付いた時には、先輩が屈み込んで一緒に写真を見つめていた。北原も消しゴムに手を伸ばし、時計の秒針も動いている。
「うん」
伊達眼鏡の自己制御型リミッターを外した途端、部屋すべての蛍光灯までもが砕け散り、猛然たる霊力が解放されていく。隣で膝を曲げていた先輩は心の底からくるプレッシャーを感じたようで、息を飲んでいた。夏那美はぐじぐじと制服の袖で想いの詰まった水滴を拭う。
「うそ……!!」
その言葉は、冗談のつもりで言った言葉が本当だった事を意味しているのだろう。
写真の母のように髪ゴムを外すと、腰まで伸びる髪の毛先が九尾の狐を連想させるようにフワリと浮いた。彼女自身の強大すぎる波動が浮かせているらしい。さらにスカートを外側に折り曲げて短めにすると――
「本人みたいっ!」