立ちはだかる者。12
「ここか?」
次々に部屋を開けては閉めを繰り返し、ようやく最後の扉にたどり着く。
その引き戸を開けた刹那、結界でも張ってあったのか……ただならぬ波動が廊下へと出ていく。それはまるでドライアイスを透明化させたような、ゆっくりとした動きで。逃げ水のような蜃気楼を放って。レイベル数値だけだと二級霊師に届きそうな北原でさえ小さく『うっ』と声を漏らしたくらいだ。
「だっ、誰?」
中から声が聞こえてきた。肩を震わせたような臆病な声。甲高いその音色は警戒しかない様子。
「オレ、今日からこの霊能部にお世話になります、北原護っていいます!」
「ぁ、あなたが北原さんですね?」
「いらっしゃい! 来るのは聞いてたよ。まさか、インターミドルのブラックタイガー実力者がウチの部に入るなんて思ってもみなかったよ」
次に言った声の主はわりと落ち着いた感じの低めのトーンだ。声だけ聞くと、どうやら少年らしい。ちなみにブラックタイガーというのは個人戦の事だ。実はエビの名称だというのを、この少年たちは知っているのだろうか。
部室のテレビで麻雀ゲームをやっていた少年は、手を止めてまじまじと北原を見つめた。
「今さらなんだけどさ、なんでウチの高校選んだの? キミの実力なら、こんな学校より全国区の高校に推薦で行けたはずなのに」
「オレ、昔この高校に在校してたレジェンドに憧れて入学したんです!」
迷いもなく、北原は言い切った。廊下の奥でまだ考えこんでいるのか、夏那美には聞こえてないらしい。
「あぁー、分かるよ、その気持ち。あの人は本当に凄かったよね。特殊能力の『熱血』『魂』とスキルの『一気通貫』。『絶対に不可能』と言われてたブラックタイガーの三連覇を成し遂げた伝説の人だもん」
「そう! 超攻撃特化型の桧原守護神!! オレ、もう一度この学校を全国に導きたい。だからこの学校に入学したんです」
一言二言で、すでに打ち解けている。和気藹々(わきあいあい)と話し、会話が少し詰まったところで少年は話題を変えた。
「だけどおかしいね。もう一人、とんでもない人が来る予定なんだけど……」
少年がそう言った直後、引き戸前で考え事をしていた夏那美が部室へと入っていく。足を一歩踏み入れた瞬間、全てのガラスが乾ききった猛烈な音を立てて粉砕した。窓際の棚に寝そべっている一人を除いて、誰もが顔を引き攣らせて彼女を見つめる。