立ちはだかる者。11
「はぁ!? ふざけんじゃないわよ! 今日は買い物して帰ろうと思ってたのに!」
「一人で買い物? あーぁ、可哀想な奴だなお前も」
「ぁ"? ババアのくせに、この私に喧嘩売る気?」
「残念ながら喧嘩する相手はアタシじゃねーんだ。霊能部のエース様がお・待・ち・か・ね。ってか、お前がアタシに勝とうって? 面白い冗談なんだけど。マジうーけぇーるぅ~」
殺気に気が付いたのか、怒りを開放する前に夏那美の手を引き立ち上がらせた北原。
「ナッちゃん、霊能部ってどこにあるんだ?」
「んっとな、そこの廊下をぐいーんって行って、階段ずがががって昇って、ヒョイッと曲がったら霊能部。ていうか屋上だからすぐ分かる」
「あ、ありがとう。行くぞ、黄志」
「いつか、ブッ殺す!」
「楽しみにしてるよ。お前が一人であのエースに勝てたら、相手になってやってもいい」
「たかが500レイベルだろ。そんなゴミに、この私が負けるとでも思ってんのかよお前は!」
さすがにキレてしまったらしい。眉間にありったけのしわを寄せて夏那美の口調が巻き舌に変わってしまった。
「ハッ。逆だ。あのエースに500レイベルも持たせちまった神様がいけねーんだよ。今のお前は、VSじゃ……100%負ける」
「そんなハッタリ――」
「ハッタリかどうかは!! ……その小さな身体で受け止めてこい。正直、あいつに本気を出されたら、アタシでも怖い」
被せてとんでもない事を暴露した奈津に、夏那美はなにも言い返せなかった。
ワイワイと騒ぐ廊下に、彼女のヒール音が溶け込んでいく。
……元はアンタも特一級だったんでしょ? なんで、そんな格下相手にビビってんのよ?
……マジ、意味わかんない……
「ここか」
北原の声にハッと気が付く夏那美。
「なにコケてんだよ? 見かけによらずドジっ子だな、お前。大丈夫か?」
「こ、こんな所に穴が空いてる方が悪いのよ! 誰よ、屋上に穴開けて放置した奴!」
どうやら、知らず知らずのうちに霊能部の部室前まで連れてこられたらしい。入ってみると内装は一軒家のようだ。いくつもの部屋があり、そのうちの一部屋前で彼は足を止めていた。
「ん? どこだ? この部屋でいいのか? この扉のどれか、だよな?」
あの女……絶対話を盛ってる。特一級が、たかが500レイベルのクズに負けるはずがない。と、誰が見ても夏那美の分かりやすい顔。半信半疑どころか、全疑丸出しだ。北原が開けた部室は、また違った部屋。いたる所にお札が貼ってあり、一般人からしてみると気味が悪いだろう。だが邪悪な気配はないようで、顔をしかめる事もなくすぐに扉を閉めている。