小さな殺戮者2
日本霊能保安協会……略して日霊保と呼ばれている。47都道府県各地に支部を持ち、さらにここ、東京都桧原村に本部を置く。
マルコシアス? 元は主天使で誠実だと言われる悪魔が、一体なぜ? だけど、まぁいいわ。
「本部が壊滅したら、私だって生きていけないもんね」
っていう建前は別の所にブン投げて。名のある悪魔かぁ。久しぶりに大暴れできる。最近弱っちいEsばっかりで飽き飽きしてたのよね。
『さっすが我らが人間国宝、現役の特一級霊師様だな』
「なにそれ。皮肉?」
『うへへ、やっぱそう聞こえるか?』
「私が本部を壊滅させてやってもいいんだけど? 特に、西嶋恭平。アンタが司令官だなんて私は絶ッ対認めない! ……こんなくだらない世界、今すぐぶち壊してやりたいわよ」
本来の夏那美の力ならば、たしかに世界を粉砕させるだけの可能性は0%ではない。だけどそうしない。正確に言えばできないのだ。リミッターと呼ばれる霊能力制御装置が作動しており、司令官である恭平の許可が出ないと全力を出せずに戦闘は終了してしまう。
『……どうした? お前今マジで言ったろ。なにかあったのか?』
『目標、奈良および三重支部をスルー! 伊勢湾を飛躍しました! 特二級たちじゃ歯が立ちません!』
『……福岡の特一級、緑川葉月からは相変わらず応答なし』
『青森から本部に向かって莫大なエネルギー反応! これはっ……同級の赤羽麻衣!! 目標の速度に比べたら遅いけど、急行中! ……うそ。あのEs、富士山も飛び越えちゃったんだけど! なにやってんの夏那美! もう目の前だよっ!』
三人の早口オペレーターが冷静に(一人を除く)報告している声が、通信機を介して夏那美の耳へと届く。そのスピードから、かなりの巨体である事は容易に想像できる。山が疾風の如く動いているようなものだろう。
「……べつに。アンタには関係ないでしょ?」
夏那美は舌打ちしてカメラから目を背けた。しかしその物哀しそうな瞳がモニター越しに恭平へと確認されているかもしれないと思うと、瞼を閉じる他、夏那美に選択肢はなかった。
『とにかく、急いでくれ。特二級の大霊術が効かない以上、お前が戦わないなら漆番隊に……特攻隊に出てもらうしかないんだ』
「分かって――」
怒り任せに夏那美がフワリと浮いた瞬間だった。視界が急に暗くなったのは。
「……えっ?」
『本部をスルー!?』