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小さな殺戮者。24



 恭平がそう言うと、安心したように息をつき、少しだけ目元を緩和させて恭平を見上げるのだった。



 広大な迷路を連想させる地下本部。俺たちは肆番隊の前を通り過ぎるも、スーパーを思わせる巨大なその部屋は平穏だった。もう(かつ)霊水(れいすい)を飲んで麻衣は元気に飛び立った、か。



「よかったねぇー、麻衣。ちゃんと入学式行けたんだねー」


「ぁ? あぁ。そうだな」



 一生で一度の入学式だ。麻衣の親御さんも、どれだけ楽しみにしているのだろう。遅れるわけにはいかない。俺に連絡を入れる余裕がないのは理解している。


 その付近にあるエレベーターのボタンを押し、乗った。いつもの癖で地下九十八階のボタンを押そうとした時、ふと今日が休暇になったという事を思い出す。……ここが地下九十八階じゃねえか。俺、どんだけ寝ぼけてんだよ?


 恭平たちの背後、ボタンとは逆側にある透明な強化ガラスからは、さらにまだ二階ほど下があった。彼らの乗った一階へと向かう超高速のエレベーターから見る景色は、壮観の一言に尽きる。



「ねぇねぇ、ほら見て! あそこが私の家で、あの家が要ちゃんの家! ぁ、あそこの野菜、土がいいからおいしいんだぁー!!」


「ちょ、やめ……跳ねるなっ! 揺らすなぁっ!!」


「にひひぃ」



 高所恐怖症の恭平は、エレベーター内の手すりに乙女のようにしがみついて情けない声で叫んでいた。しかし立ち直りが早い百合の事を少し安心したように、彼は彼女を見つめる。


 カラフルでゴツいスニーカーは、元気に走り回るための必需品だろうか。太もも辺りが斬り裂かれたような穴あきジーンズで、視線を上にずらすと黄色い薄手のパーカーが目に飛びこんでくる。その色は彼女の性格を示唆しているようだ。アシンメトリーの前髪からは右目だけ見えて、つり眉が覗いている。つい最近美容室に行ったばかりなのか、ストレートなミディアムヘア。二十代前半とは思えないほど、整いすぎた童顔だ。夏那美よりよっぽどモデルをやってそうな気がするのは俺の気のせいなのか?


 男装のように見えなくもない。黙っていれば女子からモテそうなくらいクールな外見だが、ひとたび口を開けば……ご覧の通り。かなりのお調子者だったりする。


 塗られてもいないグロスだが、そういうメイクをしなくとも桃のように潤った唇だ。悪戯っぽく笑う部下に対しほんの少し高鳴ってしまった胸を押さえつつ――がんっ、と俺はエレベーターの壁に頭突きをした。



「違うんだ違うんだ違うんだーっ!」



 そのまま二度、三度と自分を戒めるかのように激しくチョーパン。




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