小さな殺戮者。22
――後に、ルシファーは地獄へ行った際に『サタン』と名を変え、えっへん!! と鼻息荒くドヤ顔で玉座にふんぞり返る事になった。悪魔の長や堕天使の長として、誰もがその名を聞いた事があるはず。
一方アブディエルは、とばっちりを受けて帰れなくなってしまったのだという。ぷりぷり怒ってる神が、しばらく天界の扉を厳重に閉めたために。地獄へは行きたくない。だけど、帰れない。
フラフラと人間界をさまよううちに、とうとう疲れ果てて倒れてしまった。そこへ、ご都合主義的に後の霊保となるアメリカの組織構成員が通りかかり、保護した。……のはいいが、どうにもこうにも保護しきれなくなって、数十年前、世界で一番水準の高くなった日霊保へとキラーパスしたのだという。マジで迷惑な話だ。
だけどアブディエルが降りてきた頃からだ。飛行や霊術が扱えるようになったのは。そういった記述を見かけた事がある。記述によると――
『嗚呼、どなたか助けてぷりーず。わたくし、アダム様の元へ帰りたいだけなんですの。そのためなら、力をお貸し致しますわ』
本当はもっと堅っ苦しい言葉だったが、俺の語彙の範疇を超えてたからアレンジさせてもらった。
それがおよそ二千四百九十年前(紀元前四百七十五年)の話で、日本でいえば弥生時代だな。当時の貴重な記述にも、
『うほっ。六枚翼の知らない人が飛んできたから、みんな超焦ったウホ』
という言葉が残っている(あくまで俺の語彙の範疇だからな?)。アブディエルが当時の日本に来ていた事も、その記述から受け取る事ができる。そして皆が皆、平等の霊能力を手に入れた。そんな中でも、やっぱり才能ってものはあるんだろう。めきめきと霊力を成長させる者もいれば、どれだけ能力を伸ばそうとしても無駄だった者もいたという。むしろ、退化していった者の方が多いらしい。特に男だ。強力な霊能力を持つ者だけが交配して、それがまた人の子を産んで。そうやって今に流れ流れてきたんだろうな。時に、特一級はアブディエルの力の一部を持つと言われている。
ちなみに有名な武将の織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の部下である本多忠勝も特一級だったとの言い伝えがある。織田が『酒池肉林……デュフフフ』と天下統一を始め、豊臣が『まぁ待ちたまえ。その意志、このサルめが引き継ぎますぞ。うひひ』と天下を収め、徳川が焼き味噌をぶりぶり漏らしながら『その政権、取ったどー!』という流れで、幕府という名の軍隊が開いた。これが、後の日霊保だとも言われている。本当かどうかは実際にそこにいなかったから不明。だけど歴史が浅すぎる。この説はたぶん違うな。日霊保と関係ないはず。
『くっそぉ。空が飛べるっていいな! こうなったら、俺たちは死なない馬でも作ってやる。いつか絶対に俺たちも飛んでやるからなっ!!』