小さな殺戮者1
二千十五年、四月八日。東京都桧原村。いかに日本の首都だとはいえ、村は存在する。東京都の西部に位置するそこは、人口およそ二千五百人にも及ばない上に、村の面積の93%が森林だったりする。
春一番が巻き起こり、桜の花弁が吹雪のように流れていく。黄志夏那美は墓石の前でそっと手の平を合わせ、静かに瞳を閉じていた。いつもの花畑で摘んだ一輪の花が、ほぼ風の届かないそこまで訪れ、伊吹に合わせて頭を揺らしている。
──今日から……私も高校生だよ。
薄く開けた瞼。そこからは哀愁と同時に静かなる殺気を放っている。
「行ってくるね」
スタイリッシュで真っ赤なフレーム眼鏡のレンズ内に秘めている瞳からは、怒りを隠せていない。肩辺りで結っていたのか、そこから多少ウェーブがかった癖毛。真新しい制服がまだ似合っていないあどけなさ。セーラー服のスカートも膝下五センチくらいか。一見真面目そうに見える彼女だが、夏那美の周りの空間が歪んで見えるくらい、強大な波動が渦を巻いている。
いや、実はこれが普段の夏那美だったりするのだ。分かる者にしか分からないオーラ。人々はそれを、霊能力という。
『聞こえるか、夏那美!』
──通信? こんな時間に?
まだ朝七時を少し過ぎたくらいだ。リストバンドのような物から青年の声が響いている。
『おい、まさか寝てるんじゃないだろうな? 起きろ! それでも特一級か!』
「ちゃんと起きてるっつーの。別の映像見てんじゃないの? ほらここ。243番カメラ。桧原村第一高校の制服。拡大させて見てみなさいよ」
夏那美は膝と腕を伸ばして、設置されてあったカメラに向かって面倒臭そうに手を振っている。半眼で、ため息をつきながら。
『えっ? ……あ、ホントだ。お前セーラー服着るとまるで別人だな。なんだよ? 逆高校デビューってやつか?』
「うるっさいわね。ってか、緊急時以外は連絡してこないでって言ったでしょ? このストーカー!」
『だぁれがストーカーだゴルァッ! ……いや緊急時なんだって! マルコシアスが本部に向かって突貫してる!』
「本部? どこの?」
『日霊保に決まってんだろ! ちゃんと起きてんのかよっ!』