小さな殺戮者15
幸せ者だね、アンタ。この私に見つかって。ここで始末してあげたら、地獄に行かなくて済むんだもんね! この世が崩壊するまでここにいなさいッ!
『おい、夏那美? どこ行くんだ? まさか、そっちは! ばかっ、やめっ――』
通信機から聞こえてくる恭平の声を完全に無視して、夏那美は周囲一帯、無数に散りばったバスケットボールほどの半透明な魂の欠片に、容赦なく矛を突き立てる。
――えっ……?
途端、大切な『なにか』が一つ消えたような気配を彼女は感じ取っていた。
一閃、また一閃と完全な無防備のそれに向かって彼女は槍を振るう。
……なに、これ。心が、バラバラになっていくみたい……
次第に息遣いが荒くなり、頬を伝う雫が地上へと向かって落ちていく事に夏那美は気付いていなかった。最後の一つに槍を突き立てようとするも、震える槍が言う事を聞かずに、寸止め状態になる。
こんな経験は、彼女は初めてだった。普通のプロからしてみれば、どんな強敵と対峙しようとも鼻歌交じりで蹴散らしてきただけに初めて出会う感情。
ゲーム感覚でEsを浄化してきた夏那美だったが、この時ようやくEsにも感情があるのだと知った。
「どこの誰だか知らないけど……とっとと逝きなさいよ。……私の気が変わらないうちに」
その言葉を聞き届けていたのか、マルコシアスの魂の欠片はほんの少し上昇した後にフッと消える。直後、力が抜けたのか。夏那美の手から巨大な槍がスルリと抜けて地上へ向かっていき、土煙と木の葉を猛烈に打ち上げて森の中に突き刺さるのだった。
私は、マルコシアスを知っていた? 心が温まる日溜まり。なによりも大切だったもの。唯一の、居場所だったような気がする……
* * * * * *
――日霊保本部、司令室――
『肆番隊に直行でよか?』
「あ、あぁ。すまないな、葉月」
麻衣を助けるためだけに、わざわざ九州の福岡からこの本部に駆け付けてくれたようなものの葉月。通信機から聞こえてくる大人しい声は、肆番隊が常駐する医務室へと向かう様子だ。恭平は夏那美の様子がおかしい事にも気付かず、どきどきと胸を高鳴らせて博多弁の少女に返事をする。