小さな殺戮者14
葉月は無表情で軽く親指を立てると、麻衣を姫抱っこして、夏那美を追うように本部に向かって飛び立つのだった。
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――東京マザーランド、空域――
ムカつく。ムカつくムカつくムカつくムカつくッ!! なんでこの私が攻撃されておめおめと引き下がってんのよ! どうして!? 究極大霊術は歴代の特一級も封印されてたから別に構わないんだけど……あの件があってから、大霊術は封印されてしまった。なんで、私だけっ!
夏那美は、ふと一年前の事を思い出す。リミッターをつけられたまま、どうしても自分の限界が知りたくて……そして理不尽なこの世界を壊したくて、Esを倒すついでにフルパワーで埼玉県上空にて大霊術を放った事について。
住民が無防備な時間帯に、夏那美は悪魔に魂を売った。そして、それが直接彼女への罰になってしまったという事だ。
日霊保支部は現在あるにしても、焼け野原と化した埼玉県。その悪夢のトリガーを引いてしまったのは、夏那美だった。あの場には、恭平の唯一の支えだった母が暮らしていたという。足が不自由で、起きていたとしても自分で避難できないような人だったらしい。ただ、その犠牲はほんの一部でしかなかったのだが。
だけど、そうだよね。私も同じ立場だったら絶対許さない。会長が隠蔽してるからなんとかバレてないけど、もし情報が漏れてたら私は殺戮者として永久に名前を刻む事になってたんだろうな。たった一時の感情で。下手したら国家反逆の罪で今頃……
はぁ、とため息をひとつついて、もう片方の腕につけていたリストバンド型のBbに母譲りの巨大な槍を即時収納しようと思っていたらしいが、どうも煮え切らない様子だ。なにもかも思いどおりにいかない事が原因なのか、怒りにて片眉をぴくぴく。無意識に緊張弛緩を繰り返している。
このまま桧原村の木でも伐採してウサ晴らししよう。いくら斬ってもあるんだもん。べつにいいわよね?
莫大な霊力の解放にて空気抵抗を減らしつつ飛ぶ。そんな夏那美が目にとらえたのは、まだ浄化されてないマルコシアスの魂だった。ニヤリと悪しき笑みを浮かべて、彼女は極限までスピードを上げる。その女の余韻、巻き上げる風は春特有の突風に相乗され、地上の木の葉は上空まで舞い上がっていく。