小さな殺戮者13
周囲で詠唱していた特二級霊師や突貫してくる漆番隊は全員、夏那美の咆哮にビクッと魂を縮小させて、震える目で鬼神か魔神を見つめている。そしてふと気が付いたのか、思考をフルに回転させて空域で相談。『自我があるぞ』だの『本当に暴走してるの?』だの。漆番隊に関しては言葉も出ない様子だが。
「やめやめやめー! 撃ち方やめーっ!」
恭平の声がインカムを通して、杉並区にいた兵や日霊保隊員に響く。マルコシアスの件で集まっていた自衛隊やら(以下略)も、幾度も聞いた事のあるその声に肩に掲げていたキャノン砲が下がっていく。漆番隊は人生の最期を覚悟していたのか、青ざめて震える顔がこびりついていた。特二級霊師に肩を叩かれ、意識を戻されている戦士もいる。
「解散。撤収! みんな戻れ!! 夏那美、麻衣、お前らもだッ!」
『ふざッッけんじゃないわよ! 私攻撃されたのよ!? 大霊術の一つでもブッ放させなさいよ! ほら、早く第二リミッター解除して!』
「お前の力でそんな事させたらっ……」
杉並区どころか、半径千七百キロが丸裸になるだろうが! お前が原因で埼玉県はもう存在しないんだぞ!
「一年前、誰が犠牲になったか知らないとは言わせないからな。早急に帰還しろ……!」
『……分かったわよ』
夏那美はギラつかせていた目を俯かせて、素直に従った。槍は装備したままだが、音速を超えたスピードを出して桧原村へと向かってくる。
その後ろで麻衣は力尽きたように目を閉じて、上空およそ三百メートルの高さから落下していた。
「あぁっ! 麻衣っ! すみません、報告遅れました! 麻衣の体力、1%未満!」
「なんだって!?」
インカムのスイッチを入れ直して恭平は叫ぶ。
「誰か、麻衣を――」
それをすでに予想していたのだろう。一人の少女が地上すれすれで麻衣の身体を包みこんでいた。
テレビの中継画面からは確認できないので、杉並区の回線を拝借し、眼前の巨大モニターで確認してみると、
「葉月か! お前、今までどこに――」
『急がんと麻衣、このままじゃ死ぬばい。こんなに憔悴しきってからくさ……』
「すまない、お前が本部まで運んできてくれないか?」
『……』