小さな殺戮者11
「そ、そういう事だ」
追加で言ってくれる分には構わない。俺だって喋りたい。仕事中にペチャクチャと無駄な事を話したいんだ。だけど、それが上にバレると面倒な事になるからな。
彼は小さく息をつき、管理職に昇格した事をひどく後悔していた。お金はあっても使う時間がない。妻も、子供もいない。眼前の弐番隊……オペレーター達は通称『お喋りさん』って言われるだけあって、普通に会話しているし、お菓子持参も上から黙認されている。
だがしかし、恭平の立場は酷いものだ。部下にいいようにからかわれるわ、水分補給も真後ろのトイレの水(しかもこっそり飲まなきゃバレる)。
――プルルルッと、突然緊急時用の内線が入った。
「はい、西嶋です」
『恭平ぇッ! どうなってんだ、貴様の指令はッ!』
受話器を耳元につけるなり、恭平は怒声にびっくりしてそれを耳から引き剥がした。話に夢中になっていてまったくモニターを意識していなかった恭平だったが、その人物の声によって現実に引き戻されてしまう。この怖いほどまでに美しいハスキーボイスの女性は――
「かっ、会長!? な、なんで? え!? あいつらが、いない……?」
『ニュース見てみろ。大変な事になってるぞ。これで何度目だ? えぇ!?』
「み、水谷。ニュースにしてくれ」
「え? はぁ。どうかしたんですか?」
巨大モニターのチャンネルをテレビに合わせるなり、その場にいた全員が言葉を失った。ヘリの音が聞こえる。大気を打ち鳴らすローター音とともにテレビ中継されている東京都杉並区上空からは、夏那美と麻衣の姿が。
街のいたる所から火の手が上がり、逃げ惑う人々の悲鳴が幾重にも届いてきそう。東京支部の特二級霊師や、命を賭してEsに突貫する漆番隊がズラリと周囲を囲み、挙句の果てには自衛隊と日霊保の共同製作品、対Es用二足型兵器、通称Sh《Spirits(魂たちを) hunter(狩る者)》までもが上空の二人にキャノンを向けてその場に待機していた。
『お前の処分については以前言ったはずだ。もう甘い顔をする事はできん』
「ちょ、ちょっと待って下さいよ! 誰にもあの二人の喧嘩なんて止められるはずないでしょう!?」
『それでも、桧原村だけでやらせればよかっただろう! なんのためにEs応戦用都市があると思ってるんだ……? こんなくだらない問題、高校入試にも出ないぞ!』
ガチャン! と受話器を叩きつけられて一方的に切られてしまった。
……最悪だ。てっきりあの会長の事だからネタだと思ってたけど、まさか本当に実行するつもりなのか? てか俺、一応あの二人に桧原村だけでやるように言ったのに。
「こ、これは……かなりヤバい状況になってますね」