小さな殺戮者9
「あーっ! それ俺のセリフ!」
子供のように人差し指を百合に向かって恭平は叫ぶ。どうやら、このセリフを言いたかっただけらしい。
「水谷さんは本部に配属されてまだ日が浅いんだ。知らないのも仕方ない事だな」
追い打ちをかけるように要も隣から言う。
「驚異的な非被弾率? 具体的には……?」
「おおよその被弾確率は――」
「「0.00001%」」
だから、なんでお前らが俺の言葉を言うんだよ。ご丁寧に口を揃えてまで。
「0.00……え!? それって、ほぼ100%じゃないですか!」
「そう。回避率が異様に高いのだよ、ワトソンくん」
麻衣の履歴をPCで確認して、水谷は冗談にならない数値を目の当たりにしたようだ。絶句している。恭平でこそ、最初見た時は故障してるのかと思ってしまったくらいだ。
「――って事じゃないんだな、これが」
ようやく俺が喋れる。ただ単に回避率が高いほど身軽なんじゃあない。
「どういう事なんですか? この数値って、普通に考えたらあり得ない確率ですよね? 麻衣は……麻衣は、どんな戦線をくぐり抜けてきたんですか?」
百合と要も恭平に視線を向けている。という事は、初耳らしい。
「この数値がはじき出されたのは、あいつの特殊任務が原因らしいが……俺には知らされてない。ちなみに麻衣の特殊能力は『Blue eye』って呼ばれてる。それが発動すれば、十秒先の展開が見えるようになるらしい。個人的な意見としては、その能力があって、この数値になってるんじゃないかと」
「……ウソだろ?」
「十秒先……? じゃあ、どんな攻撃も避けられるんじゃないの?」
「だけど、そうも言ってられない相手がいた。それが、完全に0%じゃない証拠だ」
三人は互いに『そんな有名人いたっけ?』的な内容を目で会話して、同時に首をひねる。
「一体誰なんですか? 攻撃を当てた人って」
「桧原村第一高校、二年にして霊能部エース、天咲和美。そいつの攻撃からは、どんなプロでも逃れられない。公式試合58戦中、42勝。攻撃ヒット率は100%だ。今年のインターハイにも出場してくる要注意人物だな。あの麻衣が、唯一恐れる人物……だそうだ」
「天咲和美? 水谷くん、情報展開できる?」
「はい」
隊長である百合の言葉に素直に頷いて、キーボードをカタカタと打ち込み、麻衣の画面から飛ぶ。ここは日霊保本部。日霊保の全メンバーが登録されている。