その3
「なぜと、聞かれましても」
そうだ、私にだってわからない。この召喚、王子さまのお嫁さんを別世界から呼び出すという大変な儀式で、国の歴史にも関わるっていう大魔術なのに、何で同じ国のしかもド田舎に住んでる私がうっかりお邪魔しちゃったのか謎でしかない。しかし、そのお嫁さんだっていうこの子……。
「イチノミヤ、彼女もその……若すぎるようだし」
私の隣で手を握り、うっすら涙を浮かべた大きな瞳で顔を上げているこの子、どう見ても五歳くらい。黒髪はさらさらしていて骨格は華奢で可愛らしいし、顔立ちもなかなか整っていて将来楽しみだけど、今は幼いとしか言いようがない。村ではよく歳の差婚ってあるけど、せいぜい十歳くらいの差くらいしか許容しないっていうのに(だって寿命が違いすぎると添い遂げられないでしょ)、眼前の王子さまは二十代半ばくらいに見える。軽く見積もって二十歳差だなんて、王族はそういうのが普通なのかしら、とイシスが軽く現実逃避していると、「しかしイシス、君は国内の者だから違うはず」と王子さまが困惑するように呟いていた。
確かに彼としてはすごくすごく、困るだろう。
一人は伝承どおり別世界から来た幼女。もう一人は伝承から外れたこの世界の年頃の私。玲子ちゃんを選ぶと、よく分からないけど、ろりこんとかいう不名誉な呼び方をされてちょっと白い目で周りから見られることになるだろうし、私を選ぶと伝承を無視した選択になる。というか、私を選ぶくらいなら誰も呼び出されなかったってことにして(権力者だからきっとできるはず)、他国のお姫さまを娶った方がずっと国のためになると思う。
「あのう、ここはどこなんですか……」
今にもこぼれおちそうなほど、ますます目に涙をためて、玲子ちゃんが王子さまに訴えかけると、彼はようやく覚悟を決めたのか、美しい花のかんばせに淡い微笑みを乗せて、優しく話しかけた。




