その三
「ご主人さま、お待たせしました。それでご用は何でしょうか?」
彼は「主人、じゃないでしょ」と言い、ぷうと少年の容貌にふさわしく頬を膨らませるので、綾子は仕方なく「……セトさま。ご用は何ですか?」そう名を言い変えるだけで、一瞬で満開の花が咲いたように頬笑むのだから、安いものだ。
他の使用人に聞かれてしまうと大変なこと――やっぱり二人は付き合っていたのねっいいのいいのよ私たち分かってるから!と、抗いようもなく結婚に持ち込まれてしまう事態――に陥る可能性が非常に高いため、なるだけ控えるようにしているのだが、時々主人はこうやって我が侭を言う。名前で呼ぶことが許されているのは綾子だけなのだと、再確認させるように。
「あのね、やらなきゃいけないことを思い出したんだ。だから異界人を召喚しなきゃ!」
どうせいつものようにくだらない用事を言いつけてくる(先日は綾子の教えた剣玉とお手玉の上達ぶりの披露というぷちお遊戯会のため一時間以上拘束された)のかと思いきや、無邪気な仔猫のように瞳をきらきらさせながら言ってきたのは、とんでもない言葉だった。
「異界人? ってあのう……、鳥みたいに羽がばっさばっさ生えてたり、皮膚が緑色で光合成ガンガンしてますって感じだったり、頭に角生えてて虎のぱんつ履いててとげとげの棍棒持ってたりとか、そんなのですか?」
いやまさかそんな妙なもん召喚するわけないよねと、ことりと首をかしげて問うと、主人は内心その仕草小動物っぽくていいなあ、またしてもらおうと思いつつ笑いながら答えた。
「はは、何を言ってるんだい。きみと同じ世界からヒトを呼んでみようってこと!」
「……はあ?」




