番外編・あやこさんの憂鬱
静寂。若干埃っぽい第二鑑賞室の隅っこで膝を抱えて座る少女は、霊気がそのまま抜けてしまうのではないかというくらい深い深いため息を吐いた。
化粧っ気のない顔にさっとひとまとめにくくっただけの日に焼けた黒髪、これまた色の強めな象牙の肌に使い古された質感の地味なエプロンドレスがよく似合っている、まさにどこにでもいるような年若い使用人だ。そんな平々凡々としか言いようのない容姿の中で、光をけして失わないヘーゼルハニーの瞳が印象的である。
「疲れた……もうイヤだ」
この馬鹿でかいお屋敷の奥の方から「ヤーコ! ヤーコはどこ!」と甲高い少年のような金切り声が聞こえてきているが、少女はなんですかそれあたしには関係ないですよねそれに何にも聞こえていませんよ、とばかりに身動き一つしない。
しかし、「ヤーコじゃなくて綾子です……」と呟き、また一つピクシーが消し飛びそうなほどの溜め息を繰り返すと、「はあい、ただいま参りまあす!」と大きく返事し、数十キロの重りをしている幻覚が見えそうなほど重そうに腰を上げた。そうして、よしっと小さな声で気合いを入れると、魔女が乗っていそうな箒にちりとり、バケツに雑巾といった掃除道具を魔術式の組み込まれたバッヂで小型化して脇に抱え、まっすぐに扉を開け声の方へ向かい出て行った。
誰もいない部屋の中では、希少な昆虫や鉱物を保存している棚の上の上から、何やらもやもやした塊――綾子の溜め息製あやかし――がきょとりと透明の眼球を動かし、もぐもぐと口を動かした。「あやこさん、ごちそうさま」「あやこさん、がんばれ」とにょろにょろした部分を動かして手を振る真似をすると、またすうっと音もなく消えていった。




