十二話
「まさか! でもこんな状態じゃ……。病気治りそうにないし、もう、仕方ないよ」
と言いごほごほと喉の奥から深く咳きこむが、そんなことにはお構いなしにそっと肩を抱いて、「助けてやろうか」、そう言い、また美しく微笑んだ。
「それ、わたしを、殺すっていうこと? ゲブはとても強い魔物なんだって、誰かが言っていたよ。色々教えてくれたあの官女……おばあちゃん先生からかな。
でも死ぬ前に、ねえ……ゲブ、ゲブ……わ、わたし、ちょっとでいいから、おうちに帰りたかったようっ……!」
それは強制召喚後に流す初めての涙だった。王宮内ではいつでもどこでも誰かしらの監視の目が行き届いており、いつだって気が抜けず弱音なんて誰にも吐けなかった。あずさと二人、意思を完全に無視されこの世界に攫われてきたけれど、置かれている状況は全く違う。いや、これほど極端でなかったとしても、以前の世界でだってそうだった。姉は綺麗で優秀で皆に愛されているのに、自分は比べるのも嫌になるくらい平凡で、いつだって二番目にしかなれない。あずさを大好きな気持ちと同じくらい、妬む気持ちもあったのだ。
そんな永遠の二番目人生で断トツのどん底状態の時に出逢い、唯一ヒトとしての尊厳を守ってくれ、優しく接してくれるゲブによって、ようやく頑なに守ってきた心の柔らかい部分が露わになったのだった。




