第七話「森の奥の祠と魔族の少女」
第七話「森の奥の祠と魔族の少女」
健一が感じ取った不穏な魔力の元へ、三人は慎重に進んでいった。
森はさらに深く、木々は鬱蒼と茂り、昼間だというのに薄暗い。
時折、未知の植物や、見たことのない魔物の気配がする。
ルナは獣人特有の鋭い感覚で、その魔力の方向と規模を健一に伝えていた。
フィーナも弓を構え、いつでも矢を放てるよう構えながら、周囲を警戒する。
「健一おじさん、この魔力……なんだか、生き物のものじゃない気がするぜ。
もっと、こう、邪悪で……冷たい感じがする」 ルナが顔をしかめて言った。
「ああ、私もだ。
これまで感じたことのない種類の魔力だわ。
まるで、森全体が凍りついているかのような……」 フィーナも同意する。
健一は、自身の【魔力感知】スキルがフル稼働しているのを感じていた。
その魔力の根源は、確かに強い。
通常の魔物とは明らかに異なる。
「もう少しだ。
警戒を怠るな」 健一がそう声をかけると、視界が開けた。
そこにあったのは、森の中にひっそりと佇む、石造りの古びた祠だった。
苔むした石壁は崩れかけ、屋根も一部が失われている。
しかし、その内部から、ぞっとするような冷たい魔力が放出されていた。
「あれが、魔力の源か……」 健一は、剣に手をかけ、祠の入り口へと視線を向けた。
しかし、その入り口の前に、異質な存在が立っていた。
黒い髪に、赤い瞳。
額には一対の小さな角が生え、背中からは漆黒の翼がわずかに覗いている。
人間と見紛うほどの美しさを持つ少女だが、その容姿は明らかに「魔族」のものだった。
年齢は、見た目ではフィーナやルナと変わらないくらいに見える。
少女は、健一たちの存在に気づいていないのか、祠の入り口に背を向けたまま、何かを呟いていた。
その手には、禍々しい輝きを放つ黒いクリスタルが握られている。
「魔族……!?」 フィーナが小さく息を呑んだ。
「なんで、こんなところに魔族が……。
しかも、子供の魔族なんて、聞いたことがないぜ!」 ルナも驚きを隠せない。
魔族は、人間界とは異なる「魔界」に住む存在であり、通常は人間と敵対している。
人間界に現れるのは、強大な魔物を使役する魔王軍の幹部か、あるいは特殊な目的を持った者だけだ。
健一は、少女の様子を観察した。
彼女からは、明らかな敵意は感じられない。
むしろ、どこか憔悴し、弱々しい気配すら感じられた。
そして、彼女が手にしている黒いクリスタルから、祠から漏れ出る魔力と同じ、禍々しい波動が発せられている。
(あれが、この森の異変の原因か……。
あの少女が、あのクリスタルを使って、何かをしているのか?) 健一が考えていると、少女は突如としてよろめいた。
「ぐっ……」 苦しげに顔を歪め、その場に膝をつく。
手から黒いクリスタルが零れ落ち、地面を転がった。
クリスタルが少女の手から離れると、祠から放たれていた魔力が、一気に収縮していくのを感じた。
そして、森全体を覆っていた陰鬱な空気が、少しずつ晴れていくような感覚がある。
「はぁ、はぁ……」 少女は荒い息を吐きながら、苦痛に耐えているようだった。
健一は直感した。
この少女は、悪意を持って異変を起こしているのではなく、何らかの事情でこのクリスタルを使わざるを得ず、その反動で苦しんでいるのではないか、と。
「おい、大丈夫か?」 健一が声をかけると、少女はびくりと肩を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。
赤い瞳が、健一を捉える。
その瞳には、恐怖と、そしてわずかな絶望の色が宿っていた。
「人、間……?」 少女は警戒しながらも、どこか諦めたような表情で健一を見つめた。
「あんた、まさかあのクリスタルで、森の魔物を操ってたのか!?」 ルナが身構えながら問うと、少女は力なく首を横に振った。
「違う……わたくしは……ただ、生き残るために……」 少女の言葉に、健一は静かに剣を鞘に収めた。
「事情を聞こう。
話せるか?」 健一の穏やかな声に、少女は戸惑いを見せた。
魔族である自分に対して、剣を向けずに話を聞こうとする人間は、彼女の知る限りいなかったからだ。
「わたくしは、セレナ……。
森の魔物の活性化は、私の魔力が暴走したせい。
そして、このクリスタルは、それを抑えるためのもの……」 セレナと名乗る魔族の少女は、途切れ途切れにそう告げた。
彼女の頬には、涙の跡が光っていた。
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