第二十一話 囚われの王女と、神託の民の呪縛
第二十一話 囚われの王女と、神託の民の呪縛
王都の夜は深く、離宮へと続く庭園は静寂に包まれていた。
健一と無双の老兵団は、王宮の裏道を通り、離宮の厳重な結界へと近づいていた。
「この結界は、古代の魔術式と王家の魔力を組み合わせた二重構造になっています。
無理に突破しようとすれば、王宮全体に異変を知らせてしまいます」
アリアが、空間魔術で結界の構造を詳細に分析していた。
彼女の眼鏡の奥の瞳は、複雑な術式を解析する光を宿している。
「しかし、健一様から授かった知識があれば、解除は可能です。
わたくしとアリアで、健一様の魔力を触媒に、結界を解除します」
セレナも、健一の無限成長によって得た古代魔術の知識と、魔族としての深い理解を活かし、術式の解読に貢献していた。
フィーナ、ルナ、リルム、セレスは、周囲を警戒し、健一と魔術師組の作業を見守っていた。
セレスは、リリア王女を救い出すことへの強い使命感と、兄である父の汚名を晴らすことへの決意を胸に、ロングソードを強く握りしめていた。
健一は、両手を結界にかざし、自身の無限の魔力をゆっくりと流し込んだ。
アリアとセレナは、健一の魔力を増幅させながら、結界の複雑な術式を一つ一つ解除していく。
ギイィィィン……
空間が軋むような音を立て、結界はゆっくりと開いていった。
健一の圧倒的な魔力と、アリアとセレナの卓越した技術によって、誰にも気づかれることなく、彼らは離宮へと侵入することに成功したのだ。
離宮の中は、まるで時が止まったかのように静まり返っていた。
しかし、健一の魔力感知スキルは、この静寂の中に潜む異様な魔力の波動を捉えていた。
それは、病弱な王女の魔力とは異なる、不気味で歪んだ魔力だった。
「リリア王女は、この奥の部屋に幽閉されているはずです」
セレスが、自身の記憶を辿りながら、健一たちを案内した。
最奥の部屋へと辿り着くと、扉は重厚な魔術的な錠で閉ざされていた。
健一は、ためらうことなくその錠を無双剣 虚無で斬り裂き、扉を押し開いた。
部屋の中は、薄暗く、空気が淀んでいた。
中央のベッドには、一人の少女が横たわっていた。
金色の髪は乱れ、顔色は青白く、まるで生きる気力を失ったかのように、生気のない目を天井に向けていた。
彼女こそ、ロゼッタ王国のもう一人の王女、リリアだった。
しかし、健一の魔力感知は、リリアの身体から、通常の魔力とは異なる、黒く淀んだ魔力が放出されていることを捉えていた。
それは、神託の民が使う闇の魔晶石から放出される魔力と酷似していた。
「リリア王女!」
セレスが駆け寄ろうとしたその時、部屋の隅から、低い声が響いた。
「無駄よ。
彼女は、既に我らの神託の民の神の御子。
その魂は、病弱な肉体から解き放たれ、新たな器となるべく、選ばれた存在なのだから」
声の主は、黒いローブをまとった男だった。
彼の顔は深くフードに隠されているが、その声は、健一が以前対峙した神託の民の幹部、バルドよりもさらに冷酷で、底知れない邪悪さを感じさせた。
「貴様が、リリア王女を操っていたのか!」
ルナが怒りに拳を握りしめる。
「操るなどと、人聞きの悪い。
我らは、彼女に真の救済を与えているのだ。
彼女の病弱な肉体では、いずれ死を迎える。
ならば、その魂を真の神の器とし、永遠の命と力を与えるのが、我らの慈悲というもの」
男はそう言って、嘲笑した。
彼の背後には、複数のローブの男女が控えている。
健一は、リリア王女の身体に何が起こっているのかを、瞬時に理解した。
スキル 生命力吸収解析 スキル 魂の魔術 スキル 精神汚染解除。
無限成長によって新たなスキルが発動する。
リリアは、神託の民の魔術によって、生命力を吸い取られ、同時に魂を汚染されている。
そして、その魂を、異界の存在を呼び出すための器として利用されようとしているのだ。
「そんなことはさせない!」
健一は、無双剣 虚無を構え、ローブの男へと飛びかかった。
しかし、ローブの男は動じない。
彼の周囲には、目に見えない防御結界が張られており、健一の剣を弾き飛ばした。
「ふふっ。
無駄よ、Sランク冒険者。
私の結界は、王家の魔力と異界の魔力を融合させた、最強の防御だ。
貴様ごとき剣士に破ることはできない」
男は、自らの魔術に絶対的な自信を持っているようだった。
彼の魔力は、バルドよりも遥かに強大で、その奥には、異界の存在が宿っているかのような、不気味な気配が感じられた。
「リリア王女の病は、神託の民の魔術によって引き起こされたものだったのですね!」
セレスが、絶望に顔を歪ませた。
彼女は、これまでリリアが苦しんでいた病が、人為的なものだったという事実に、深い怒りを覚えた。
「その通り。
彼女は、王家の宝珠を無力化するための、生贄なのだから」
ローブの男は、嘲笑しながら答えた。
「健一様、あの結界は、王家の魔力と異界の魔力で構築されています!無双剣 虚無の全属性無効化が効きにくい可能性があります!」
リルムが、健一の剣の特性を考慮し、警告を発した。
健一は、無双剣 虚無を一旦収め、アリアに指示を出した。
「アリア!あの男の結界を解析し、弱点を探せ!セレナは、リリア王女の魂の汚染を解除する術式を構築しろ!フィーナ、ルナ、リルム、セレス!奴らの援護を阻止しろ!」
「承知いたしました!」
アリアは、空間魔術で男の結界の構造を瞬時に解析し始めた。
セレナは、健一の精神汚染解除スキルを参考に、リリアの魂を浄化する術式を構築し始めた。
フィーナの聖なる矢が、ローブの男女の動きを封じる。
ルナは、素早い体術で彼らの攻撃を回避し、反撃する。
リルムは、自身が持つ王家の血統魔術の知識と、健一から得た生命力吸収解析の知識を活かし、セレスにリリア王女を救うためのヒントを与えていた。
「セレス!リリア王女は、王家の血統魔術によって生命力を繋ぎ止められている!その魔力を、浄化する術を!」
リルムの言葉に、セレスはハッとした。
彼女は、王家の一員として、血統魔術に関する知識を幼い頃から学んでいたのだ。
セレスは、リリア王女の傍に駆け寄り、彼女の手を握った。
そして、自身の魔力をリリアへと流し込み、王家の血統魔術である 聖なる治癒の光 を発動させた。
それは、王家の血を引く者しか使えない、生命力を活性化させる魔術だった。
「リリア王女!目を覚ましてください!わたくし、セレスが必ずあなたをお守りいたします!」
セレスの聖なる光が、リリアの身体に宿る闇の魔力を押し返していく。
リリアの顔色が、徐々に回復し始めた。
「な、何だと!?貴様、王家の血統魔術だと!?愚かな!そんな魔術で、我らの神の御子を救えるものか!」
ローブの男は激怒し、セレスへと闇の魔術を放った。
しかし、その魔術は、健一の魔力で防がれた。
「セレス騎士は、俺が守る」
健一は、男の結界へと向かい、自身の魔力を集中させた。
スキル 魔力結界破壊 スキル 異界魔力同調 スキル 時空間歪曲。
健一の無限成長は、この状況下でも発揮される。
健一は、男の結界の構成要素である異界の魔力を、自身と同調させることで、結界そのものを内部から破壊しようとしたのだ。
「まさか……私の結界を、内部から破ろうというのか!?そんな馬鹿な!」
ローブの男は、自分の結界が歪んでいくことに、恐怖の表情を浮かべた。
健一は、自身の膨大な魔力を結界に流し込み、男の結界を完全に崩壊させた。
結界が砕け散ると同時に、健一は無双剣 虚無を構え、男へと肉薄した。
「貴様の企みは、ここで終わりだ」
健一の剣は、男の闇のローブを切り裂き、その本体を露出させた。
男の素顔は、健一が見たこともない、異形の顔だった。
その肌は青黒く、瞳は赤く輝き、まるで人間ではないような姿だった。
彼は、人間でありながら、異界の存在と融合したような姿をしていた。
「ぐっ……!この、この強さ……!まさか、異界の存在と、ここまで渡り合える人間がこの世界に……!」
男は、健一の圧倒的な力に、初めて絶望の色を浮かべた。
健一は、男の身体から、異界の魔力が噴き出しているのを感じた。
「貴様は、人間ではないな。
異界の存在が、この世界に干渉するための器か」
「ふふっ……流石はSランク冒険者。
そこまで見抜くとはね。
私は、神託の民の**『使徒』**。
真の神をこの世界に招くための、尖兵よ」
男は、自らの正体を明かした。
彼は、人間社会に潜み、神託の民を操る、異界からの使徒だったのだ。
「使徒……!?」
健一は、王都の闇が、単なる人間の組織だけではないことに、新たな戦慄を覚えた。
健一は、使徒の身体に無双剣 虚無を突き立てた。
使徒は、苦痛の叫びを上げ、その身体から異界の魔力が噴き出す。
そして、その魔力は、リリア王女の身体に宿っていた闇の魔力と同じものだった。
「くっ……私を倒しても、無駄よ。
王家の宝珠は、既に我が神の監視下にある。
もうすぐ、真の神が降臨し、この世界は浄化される!」
使徒は、断末魔の叫びと共に、光の粒子となって消滅した。
使徒が消滅すると同時に、リリア王女の身体から、最後の闇の魔力が抜け出し、彼女は穏やかな呼吸を取り戻した。
セレスの聖なる治癒の光が、彼女の生命力を活性化させ、リリアはゆっくりと目を開けた。
「お兄様……セレスお姉様……」
リリアは、セレスの手を握りしめ、健一の顔を見つめた。
彼女の瞳には、まだ不安の色が残されていたが、健一の優しい眼差しに触れ、安堵の表情を浮かべた。
「リリア王女。
もう大丈夫だ。
君は、救われたんだ」
健一は、リリアの頭を優しく撫でた。
健一と無双の老兵団は、囚われのリリア王女を救い出し、王都の危機を一旦は食い止めた。
しかし、神託の民の真の目的と、異界の使徒の存在を知った健一は、この戦いが、単なる人間同士の争いではないことを確信した。
彼らの戦いは、この世界の運命を賭けた、壮大なものへと変貌していくのだった。
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