第二話「森のエルフと最初の仲間」
第二話「森のエルフと最初の仲間」
女性の悲鳴が聞こえた方向へ、健一は迷うことなく足を進めた。
身体は先ほどゴブリンと戦ったことで、まるで剣士としての経験が何年もあったかのように、森の中を滑らかに駆け抜ける。
これも【無限成長】の恩恵か。
新たな身体能力と、それに伴う感覚の鋭敏さに、健一はわずかな興奮を覚えていた。
悲鳴の元へとたどり着くと、そこに広がっていたのは予想通りの光景だった。
三体のゴブリンが、一人の少女を追い詰めている。
少女は細身の身体で、身の丈ほどの弓を構えているが、その手は小刻みに震えていた。
美しい銀色の髪が、まるで絹糸のように背中に流れている。
尖った耳からして、エルフ族だろう。
「や、やめて……！」 少女が放った矢は、ゴブリンの一体に命中したが、それは浅い傷を負わせるに留まり、ゴブリンは逆に怒りを露わにして少女に迫る。
健一は思わず舌打ちをした。
「ったく、困った奴らだな」 ゴブリンの注意が少女に集中している隙を突き、健一は素早く茂みから飛び出した。
「おい、そこの緑のチビ！」 突然の乱入者に、ゴブリンたちは一瞬動きを止める。
その隙を見逃さず、健一は手にした剣を抜き放ち、一閃。
ヒュン、という風切り音と共に、ゴブリンの一体の首が宙を舞い、血飛沫を上げながら地面に転がった。
「ギギギィ！？」 残りの二体は、仲間が一瞬で屠られたことに驚き、怯んだ表情を見せる。
しかし、すぐに凶暴な本性が戻り、健一に襲いかかってきた。
健一は冷静だった。
先ほどの一体とは違い、今回は二体。
相手の動きを冷静に見て、動きを予測する。
左からの剣を最小限の動きで躱し、右からの棍棒を剣で受け流す。
その反動を利用し、剣の柄で右のゴブリンの顎を打ち抜いた。
「グッ！？」 バランスを崩したゴブリンの腹部に、健一は容赦なく剣を突き立てる。
「ギャアァァァッ！」 一体が消滅。
残るは一体。
怯えきったゴブリンは、健一の顔を見て、一目散に森の奥へと逃げ出した。
健一はそれを追うことはせず、剣を鞘に収めた。
「大丈夫か？」 少女に声をかける。
少女はまだ恐怖に震えていたが、ゆっくりと顔を上げた。
翠玉のような瞳が、健一を捉える。
その視線は警戒心に満ちていたが、敵意ではない。
「あ、あなた様は……？」 消え入りそうな声で、少女が問う。
「通りすがりのおじさんだ。
森の中で悲鳴が聞こえたからな。
困ってる奴がいれば、放っておけない性分でね」 健一は苦笑した。
前世では、こんな台詞、言ったこともない。
少女は健一の言葉に少し警戒を解いたようだったが、すぐに表情を引き締めた。
「わ、わたくしはフィーナと申します。
あなた様に命を救っていただきました。
このご恩、必ずや……」 「大層なことじゃなくていい。
それより、こんな森の奥で何をしてたんだ？一人か？」 健一の問いに、フィーナは俯いた。
「はい……。
わたくしは、この森の奥にある隠れ里の出身で……。
薬草を探しに出ていたのですが、道を間違えてしまって……」 声の震えから、まだ幼さが感じられる。
健一は、まるで自分の娘を見ているかのような、複雑な気持ちになった。
娘はいないが。
「そうか。
おじさんもちょうど、この森を抜けて街に行きたいところなんだ。
もしよかったら、一緒に来ないか？一人でいるよりは安全だろう」 健一の提案に、フィーナは顔を上げた。
「ご、ご一緒させていただけるのですか？」 「ああ。
その代わり、この世界のことを色々と教えてくれると助かる。
おじさん、この世界に来たばかりで、何も知らないからな」 健一はそう言って、人懐っこい笑顔を見せた。
おじさんの笑顔は、なぜか人を安心させる力があるらしい。
フィーナは少し考えた後、小さく頷いた。
「はい……！わたくしでよければ、喜んでお教えいたします！」 こうして、健一の異世界冒険に、最初の仲間が加わった。
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