第十八話「王都の闇と、騎士セレスの絶望」
第十八話「王都の闇と、騎士セレスの絶望」
アリアが展開した**『長距離空間門』**をくぐり抜けると、健一たちの目の前には、荘厳な王都の風景が広がっていた。
白く輝く石造りの建物群、整然と並ぶ大通り、そして中央には、天空を貫くかのようなロゼッタ王城がそびえ立っている。
しかし、その美しい光景とは裏腹に、王都全体を覆うように、不穏な空気が漂っているのを健一は感じた。
人々の顔には疲労と不安の色が濃く、街の活気は失われかけているようだった。
「こちらへどうぞ、佐藤様」 近衛騎士セレスは、顔色一つ変えずに健一たちを王城へと案内した。
その歩みは速く、まるで一刻も早く城の奥へ辿り着きたいと願っているかのようだった。
城内も、外の街と同じように重苦しい空気に包まれていた。
廊下を行き交う兵士たちの顔にも、疲れと焦りの色が滲んでいる。
謁見の間で待つことしばし、健一たちは宰相と対面した。
宰相は、疲労困憊といった様子で、健一たちに現状を説明した。
「Sランク冒険者『佐藤健一』様、そして『無双の老兵団』の皆様、この度は、王都へのご足労、誠に感謝いたします」 宰相は深々と頭を下げた。
「実は、エルドリア地下ダンジョンの件と同時期、王都でも異変が起きておりまして……。
王都の地下にある**『生命の泉』**の魔力が枯渇寸前なのです」
**『生命の泉』**は、ロゼッタ王国の魔力供給源であり、王都の結界を維持するための要でもあった。
その枯渇は、王都全体の結界の弱体化、ひいては街の壊滅を意味する。
「原因は不明ですが、数週間前から泉の魔力が急激に失われ始めています。
これまで幾度となく調査隊を派遣しましたが、全て消息を絶ち、原因究明には至っておりません」 宰相は、絶望的な状況を語った。
健一は、ゴードンから得た情報と照らし合わせ、すぐに**『神託の民』**の関与を確信した。
「その『生命の泉』の枯渇と、消息を絶った調査隊の件、我々が解決しましょう」 健一がそう告げると、宰相は安堵の表情を浮かべた。
「おお……Sランク冒険者様のお言葉、心強い限りです!セレス騎士、佐藤様方を『生命の泉』へと案内し、ご協力をお願いせよ」
セレスは、健一たちに深々と頭を下げた。
「はい。
このセレス、命に代えても、皆様の調査を支援させていただきます」 彼女の瞳には、微かな光が灯ったが、その奥には、やはり深い絶望の影が揺らめいていた。
健一は、そんなセレスの様子を**【忠誠心鑑定】スキルで観察していた。
彼女は王家に対して絶対的な忠誠を誓っているが、同時に、王国の現状と自分の無力さに深く苦しんでいる。
そして、何か、健一たちにも語れないほどの個人的な絶望**を抱えているようだった。
セレスの案内で、『生命の泉』へと続く地下通路を進む健一たち。
通路は、苔むした石壁に囲まれ、ひんやりとした空気が肌を刺す。
「健一様、この通路全体に、弱いながらも**『闇の魔晶石』の残滓のような魔力を感じます」 セレナが、敏感な魔族の感覚で異変を察知した。
「やはり、ここも『神託の民』の仕業か」 健一は、『無双剣・虚無』**に手をかけた。
最深部へと辿り着くと、そこには、巨大な水晶でできた泉があった。
しかし、本来なら清らかな魔力を湛えているはずの泉は、薄暗く濁り、魔力はほとんど感じられない。
泉の周囲には、黒いローブをまとった数人の人影があった。
彼らは、泉の中心に、禍々しい輝きを放つ**『闇の魔晶石』**を設置し、その石から放たれる闇の波動で、泉の魔力を吸い上げていたのだ。
「来たか、Sランク冒険者よ。
だが、もう遅い。
**『生命の泉』は既に我々の手に落ちた。
後は、『神託の民』**の降臨を待つだけだ」 リーダー格らしきローブの男が、嘲笑した。
彼の言葉は、ダンジョンで対峙したゴードンと同じ、狂信的な響きを持っていた。
「貴様たち……!よくも王都の生命源を!」 セレスは激怒し、腰のロングソードを引き抜こうとしたが、その身体は震え、膝をついた。
「な、なぜ……力が、入らない……」 セレスは苦痛に顔を歪ませ、その場に倒れ込んだ。
健一は、セレスの異変をすぐに察した。
「くそっ、この泉の魔力枯渇は、ただの魔力吸収じゃない。
セレス騎士、貴様も泉の魔力と生命力を共有する契約をしていたのか!?」 健一は、セレスの状況を瞬時に理解した。
王家の一部の血筋、あるいは近衛騎士団の特定の役職を持つ者が、王都の生命源である泉と生命契約を結び、泉が枯渇すれば、自身も衰弱するという、究極の忠誠を誓うシステムが存在したのだ。
【スキル『生命契約解析』を習得しました!】 【スキル『血統魔術』を習得しました!】
「ふふ、よくぞ気づいたな、Sランク冒険者。
彼女は、王家の血を引く、この泉の**『生贄』**。
泉が枯渇すれば、彼女の命も尽きる。
そして、王都の結界も完全に崩壊する。
貴様たちに、我々の邪魔はさせない!」 ローブの男は、勝ち誇ったように笑った。
健一は、セレスの顔を見た。
彼女の瞳には、自身の死への恐怖よりも、王都が滅びることへの絶望が満ちていた。
「くっ……わたくしの、不甲斐ないばかりに……」 セレスは、自身の無力さに歯噛みした。
「セレス騎士は、俺たちが必ず助ける。
そして、この泉も、王都もだ」 健一は、力強い声で宣言した。
「フィーナ、ルナ!奴らを抑えろ!セレナ、アリア、リルム!**『闇の魔晶石』**を破壊する術を探せ!」
「おう!」 ルナが咆哮と共に、ローブの男たちへと突進する。
彼女の拳は、闇の魔力を纏った敵を一撃で粉砕する。
フィーナの矢は、敵の隙を的確に突き、その動きを封じた。
セレナは、アリアと共に泉の周囲に展開された魔法陣と、**『闇の魔晶石』の構造を解析し始めた。
「この魔晶石は、通常の破壊魔法では逆に魔力を暴走させる危険がありますわ!」 「ええ。
物理的に破壊するだけでなく、魔力の流れを完全に遮断し、異界との繋がりを断ち切る必要があります」 アリアの言葉に、リルムはすぐさま反応した。
「でしたら、健一様の『無双剣・虚無』**が、その役割を果たせるはずです!あの剣は、魔力を遮断し、異界との繋がりを断つ力を持っています!」
健一は、**『無双剣・虚無』を構え、泉の中心にある『闇の魔晶石』**へと照準を合わせた。
「よし。
俺が、この魔晶石の力を完全に封じる。
その間に、アリアとセレナは、泉の魔力を回復させる術式を構築しろ!」 「承知いたしました!」 二人は、健一の指示に従い、泉の魔力回復のための術式構築に取り掛かった。
ローブの男たちは、健一の行動を阻止しようと、一斉に襲いかかってきた。
しかし、健一は動じない。
「邪魔だ!」 健一の**『無双剣・虚無』が、まるで流星のように閃く。
【神速剣技】と【無双乱舞】**が炸裂し、ローブの男たちは、彼の剣によって次々と斬り伏せられていく。
【スキル『闇属性耐性』を習得しました!】 【スキル『魔力吸収』がレベルアップしました!】 健一は、敵の闇の魔力を吸収しながら、その力をも自身の一部としていく。
彼の強さは、まさに無限に増大していた。
全てのローブの男を制圧した健一は、泉の中心にある**『闇の魔晶石』へと飛び込んだ。
剣の切っ先が魔晶石に触れると、魔晶石から禍々しい闇の波動が噴き出すが、『無双剣・虚無』の全属性無効化の特性によって、その全てが吸収されていく。
そして、健一は、剣に【虚空属性攻撃】**の力を込め、魔晶石の内部に宿る異界との繋がりを完全に断ち切った。
キィィィィン…… 魔晶石から、甲高い音が響き渡り、まるでガラスが砕けるかのように、魔晶石は光の粒子となって消滅した。
『闇の魔晶石』が消滅すると、泉を覆っていた濁りが晴れ、清らかな魔力が再び泉へと満ちていく。
「泉の魔力が……回復していく!」 セレナが歓喜の声を上げた。
アリアも、泉の魔力回復と同時に、用意していた術式を起動させた。
泉の魔力は、急激に回復していく。
泉の魔力が回復すると同時に、セレスの顔から苦痛の表情が消え、失われていた力が戻ってきた。
「わ、わたくしの力が……!」 セレスは、立ち上がり、健一へと駆け寄った。
「佐藤様……ありがとうございます!わたくしの命、そして王都を救ってくださったのですね……!」 セレスの瞳には、絶望ではなく、希望の光が宿っていた。
「まだだ、セレス騎士。
まだ本当の脅威は去っていない。
この王都を裏で操る**『神託の民』という存在がな」 健一の言葉に、セレスは表情を引き締めた。
「はい……王家にも、『神託の民』の内通者がいると聞いております。
父も、その真実を追っていたのですが……」 セレスの言葉に、健一は眉をひそめた。
どうやら、『神託の民』**の影は、王宮のさらに深いところにまで食い込んでいるらしい。
「セレス騎士。
もしよかったら、俺たちと共に、この王都の闇を晴らさないか?君の力と、王家への忠誠心は、きっと王都を救う力になる」 健一は、セレスに手を差し伸べた。
セレスは、健一の差し伸べられた手を見て、そしてその背後に立つ、フィーナ、ルナ、セレナ、リルム、アリアの信頼に満ちた瞳を見つめた。
彼女は、健一の手を掴んだ。
「はい!佐藤様……!わたくし、セレス・フォン・ローゼ、この命、あなた様にお預けいたします!」 彼女の瞳には、決意と、そして健一への絶対的な忠誠が宿っていた。
【スキル『王族魔力感知』を習得しました!】 【スキル『王宮情報網』を習得しました!】
健一の頭の中で、新たなスキル習得の音が鳴り響く。
こうして、王都の危機を救った健一と『無双の老兵団』は、ロゼッタ王国の近衛騎士、セレス・フォン・ローゼを新たな仲間に迎え、王都の闇、そして大陸全土を覆う**『神託の民』**という巨大な陰謀へと、深く足を踏み入れていくことになるのだった。
読んで下さりありがとうございました!
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