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第8話 推し、辞めさせたくて偵察したら完璧すぎて絶望する


早速アレンは駐屯地で働くアキを偵察し始めた。


場所は騎士団の洗濯場。

湿った布の香りと、脱水機のカタカタという音だけが響くその場で、アキは淡々と作業を進めていた。


 

「汚れのひどいものは先に浸け置きしておいて、こっちは一度叩いてから洗う、と!」



ーーー手際が良い。

その上きちんと布を選別して洗っている。

妙に慣れた動きに、アレンは壁の陰から腕を組んだまま眉をひそめる。


(……なんだあれは。職人か?)



次に、訓練所の床を這いつくばってモップをかける姿を見つけ、観察する。



「隅っこのホコリが目立つから、ここは重点的に……」

「アキさーん、昼飯まだー!?」

「ヴォルトさん、あと15分我慢ですよー」



サラリと受け流しながらも手は止まらない。

どれだけ話しかけられても作業効率は落ちず、床はすでにピカピカだった。



ーーープロがいる。


アレンは初めて、アキのプロフェッショナルな一面を見てゴクリと喉を鳴らしたのである。



(……いや、だが、肝心なのは炊事の腕だ)



指摘できるのは、これかも知れない。

そう思ったアレンは昼休憩まで待つのであった。




◇◇◇


 


「いただきまーす!!」



食堂では、団員たちが大皿に盛られた煮込みを一斉にかきこみはじめた。



「今日のスープもめちゃくちゃ旨くない?」

「アキさん、絶対隠し味使ってるでしょ?」

「いやいや、アキさんの味はマジで本物だから」

「えー、嬉しいなぁ。あっ!ヴォルトさん!おかわりは2回まで!!」



そんな声を耳にしながら、アレンは足早に自室に向かっていた。


ーーーまさか、団員も手懐けたのか…?



「…嘘だろ」



アレンは静かに呟いた。



(何故あんな“普通”の雑用係が、あそこまで馴染んでいるんだ)



皆、妙にあの雑用係を慕っている。

理由はきっとーーーご飯が美味いからだ。


そんな理由で人間関係を築かれてたまるか。

俺たちは帝国一の守り神と言われる騎士団なのに。



そう思ったが、心の中で否定できない自分がいた。

何故なら、最近、やけに飯が美味いと思っていたからである。




◇◇◇




「ーーー何故あの雑用係は仕事が完璧なんだ!」



自室に戻ったアレンが思わず声を上げる。

そこに、昼食を持って来たジュードが「何言ってんだこいつ」という顔で扉を閉めた。



「仕事が完璧なのは良い事じゃないですか」

「確かにそうだな。……いや、違うんだ」



まさか辞めさせるためにアラがあって欲しいなどと言えないアレンは、部下の正論に何も返せない。


ちなみに、今日のご飯も美味しい。

もちろんあの雑用係が炊飯をしていた。


ーーークソ!隙がない!



飯が旨く、洗濯が丁寧で、プロ品質の清掃業務。

その上部下達は妙に慕っているし……。



「ああ、クソ。女じゃなけりゃ良かったのに」

「……流石にそれはクズ発言ですよ」



ジュードに心の底から軽蔑の目で見られたアレンは、確かにその通り過ぎて何も言い返せず目を伏せる。


当の本人であるアキは、まさか推しが自分を辞めさせようと計画してるなど露ほども思わず、この日も雑用業務に明け暮れるのであった。




隙のないアキ。仕事のできる女に憧れます。

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