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第6話  推しじゃない人にデートに誘われました(人生初)


この日、アキは買い出しで街に出ていた。

いつものように大量に作る大皿料理の香辛料が切れたためだ。


「これを店主に渡せば良いので」とジュードに軽く言われ渡されたメモにはこの世界の文字がびっしり書かれている。



(ま、なんとかなるっしょ)



ついでに少しだけ寄り道して、観光気分で街をぶらぶらした。


帝都の中心街は、古びた石畳と色とりどりの屋根が連なる、異国情緒あふれる風景だ。

露店の焼き菓子の甘い匂いと、どこか遠くで鳴る鐘の音が心地良い。



(こういうの、異世界って感じ)



すると、後ろから声がかかった。



「ーーーあれ、アキちゃん」

「えっ……あっ、この前の!」



振り返れば、前回手紙を渡したローブの男だった。

今日も変わらず、フードを深くかぶっている。



「また会ったね。今日は買い出し?」

「はい。あ、そういえば……」



そうだ、この人の名前聞いてなかった。



「何て呼べば……?」

「あー、ウィルでいいよ。それより、何買うの?」



サラリと名乗ったウィルにアキはメモを取り出し、読めない文字の羅列を見せる。



「わあ、すごい量だね。手伝うよ」

「えっ!?いえ、大丈夫です!」



即座に断る。しかしその実、文字が読めないので量も分かってない。



「いやいや、大丈夫じゃないって。これ全部持って帰るの無理だよ?アレンは何を考えてるんだろうね?」



(私を男だと考えてますよ!)

とは言えず、再び苦笑いで誤魔化しておく。



「私を女扱いしてくれるの、ウィルさんくらいですよ」

「嘘ぉ?こんなに美人なのに?」

「えー、お世辞でも嬉しいです〜」



(まあ、本当に私が可愛かったら今ごろアレンに甘やかされてるはずだけど)

現実なんて、所詮こんなもんよ。



「ま、とにかく手伝うよ。俺もちょうどアレンに用があるんだ」

「あ、そうなんですね?」

「“ついで”ってことで」



そう言って笑うウィルに、アキは少しだけ気が楽になった。

この人は、アレンとは違って私をちゃんと人として扱ってくれる上に気遣いもしてくれる。これが正しく“紳士”というものなのだろう。


今度この人の爪の垢を煎じて飲ませてやろうかな。


アキはウィルに笑いかけながら、そう思うのであった。



◇◇◇




騎士団の駐屯地に戻ったアキは、食糧庫に荷物を下ろして深く息を吐いた。



(まさか本当に、この量を私一人に運ばせるつもりだったのか)



アレン……やっぱエセ紳士だったな。男主人公なのにちょっと引くわ。


アキが心の中で現実の辛さを嘆いていると、ウィルが飄々と「ね?俺がいて良かったでしょ?」と笑いかけた。



「本当に助かりました。ありがとう、ウィルさん」

「良いよ。か弱い女の子を放って置けなかったし」

「ん゛っ」

「じゃあ、俺はアレンに会ってくるから」



そう言って踵を返そうとしたウィルを、アキは慌てて呼び止めた。



「この前のお礼も含めて、ちゃんとお返ししたいんですが!」

「え?……別に良いんだけど…でも、そうだな」



少し考え込むような素振りを見せたあと、ウィルはふわりと微笑んだ。



「今度、デートして?」

「……へっ?」



心臓が一瞬、変な音を立てた気がした。

人生初の言葉に、アキの思考が止まる。



「あ、でもその時はちゃんと“女の子”の格好してね?その駐屯地の男みたいな格好じゃなくてさ」



そう言って、ウィルは手をひらひらと振り笑いながら出て行った。

咄嗟にアキは、ばっと自分の服を見下ろす。



(……えぐい)



何年も使い古された布のシャツ、破れたズボン。

正直、元の世界で着てたスウェットの方がマシな格好だ。


褒められたのか、貶されたのか。


でもーーー



(デート、かぁ……)



誰かにそんな風に誘われたのは、21年の人生で初めてだった。

まさか自分が推し以外でこんなにドキドキする日が来るなんてー……。


アキは、むず痒く感じる胸を掻きながら、大量に買った食材を倉庫へと運ぶのであった。




ブクマ、読んで下さりありがとうございます!


今のところアレンに良いところは一つもなし!

現実はつらたん

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