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第4話 推しよ、見習え!


地図を頼りに街を歩く。初めて訪れた王都の街並みは、まるで絵本のようだった。

石畳の広い通りに並ぶ古風なカフェ、屋根に花が垂れ下がった家々、遠くに見える教会の尖塔。



(うわー…。異世界、観光だけなら最高じゃん)



キョロキョロ辺りを散策しつつ地図のマークに従って辿り着いたのは、広場の奥にある小さな公園だった。

中央には噴水があり、子供たちが走り回っている。


アキは指定されたベンチに腰を下ろし、封書と地図を確認しながら、ここに来るであろう「誰か」を待った。



するとーー



「やあ。珍しい子だね」



目の前に現れたのは、深いローブを羽織った長身の男だった。

特徴から、どうやらこの男が待ち合わせの人物で間違いないようだ。

顔の半分がローブに隠れているが、その輪郭は整っており、どこか飄々とした雰囲気を漂わせている。



「新入りかい?……にしては、ずいぶん細身だね」



そろそろ突っ込むのにも疲れてきたアキは無意識にため息が漏れた。


どうやら、また男と思われたらしい。

確かに、待ち合わせ用に「分かりやすく」騎士団の簡易制服を着ているので無理もないけれど。


しかし、何故か男は興味深そうにアキをジロジロと眺め始めた。



「……あれ。よく見たら君、女の子じゃない?それも美人だ」

「…………えっ!?」



初めての「女扱い」。

さらに「美人」などという言葉が飛び出し、アキは完全にフリーズした。



(今、褒められた……!?私が!?この世界で!?)



カッと頬が熱くなるのを感じる。

慌てて言葉を探すも、何も出てこない。


そんなアキに、男は楽しそうに微笑んだ。



「珍しい事もあるね。あいつが、女の子を側に置いてるんだ?」

「あ、あいつ…?」



一瞬誰の事かと思ったが、アレン以外思い当たらない。

帝国一の騎士団長をあいつ呼ばわりできるなんて……そんな人、小説に出てきたっけ?



「せっかくだし、お茶でもど…」

「あ、行きます!」



食い気味に答えるアキ。


え?女扱いが嬉しいって?

違いますー!推しをあいつ呼ばわりできる人が誰なのか確かめたいんです!!



自分の中で必死に言い訳を唱える。

それでも手紙を渡さなきゃいけないという使命だけは忘れていない。

アキは鞄から封書を取り出すと、男に差し出した。



「これ、団長がお渡しするようにと」

「あ〜、ありがとう。忘れるとこだった」



男は飄々と言ってあっさりと受け取り、封も開けずに懐にしまい込む。

あまりに気軽すぎて、アキは少し拍子抜けする。



「じゃ、カフェ行こっか。すぐそこにあるし」



そう言って男が指差した先には、通り沿いにある洒落た石造りのカフェだった。

開け放たれたテラス席では数人の客がゆったりとお茶を楽しんでいた。



(……ああ、こういうの異世界あるあるー)



本当にアキは、今だけは「観光客モード」全開だった。


 


◇◇◇


 


「へぇ、名前はアキっていうんだ。変わってるけど、響きがいいね」

「そうですか?」



テーブルに並べられた薄焼きパンとハーブティー。

ふわりと香るレモンの香りが鼻をくすぐる。


男はカップを持ちながら、斜め向かいに座るアキをじっと見つめてきた。



「で、どうしてあいつのとこで働いてるの?」

「あいつ…って、やっぱり団長ですよね?」

「そうだよ。あんな無骨で偏屈なやつ、よくやっていけるね?」



それは私が男だと思われてるからです!


きっとアレンのタイプである可愛い系女子なら、持ち前の紳士キャラとツンデレで今頃天国にいるはずだ。

でも言ったら最後、自分が悲しくなるので意地でも言わない。



「それより、あなたは団長とどういう関係なんですか?」

「え?うーん……腐れ縁?」



……本当に、こんなキャラいたっけ??


つい、眉間に皺を寄せて未だ深々とローブを被った男を見つめるアキ。

少なくとも、自分が読んでいたエピソードにはアレンの腐れ縁はいない。

もしかして、私が読み損ねた新刊に書いてあったのかも知れないが、今となっては確認しようもない。


思わずジッと目の前の男を見つめるアキ。

それに、少しだけ困ったように男が笑った。



「そんなに女の子から見つめられると照れるな」

「ーーーくっ」



つい変な声が漏れる。


また“女の子”って言われた。

最近は男と言われる事に対してのツッコミしかしてないので、どうにも変な反応しか出てこない。


それに知ってか知らずか、男は最後のハーブティーを飲み干すと「じゃ、またね」と席を立った。



「え?また?」

「うん。……ほら、また仕事で会うかもしれないし?その時はまたお茶してね」



言葉の調子は軽いのに、どこか“予告”めいた響きに聞こえたのは気のせいだろうか。


それより……え?なにこの人、なんでそんなサラッと言えるの。

嬉しいような、照れくさいような。


……そして、「こんな扱いをアレンから受けたかった」という気持ちをアキは自覚した。



「ま、仕事じゃなくても、会えたら良いな」



またサラッと、躊躇なく。

その一言で、アキは耳まで真っ赤になった。



(ダメだ、この人感覚がイケメンすぎる……!)


 

ーーー頼むからこの人を見習って欲しい…!

いや、見習え!!



アキは仏頂面のアレンを思い浮かべて、そんな事を強く思うのであった。



ブクマ、評価ありがとうございます!!

励みになります!アキも救われると思います笑


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